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第120話 知らないうちに
HRが終わると、さっそく陽くんが僕のところへやって来た。
どんくさい僕とは違って陽くんは何をするのも早いんだ。
って言っても僕よりは~って事。
ふたり揃うとクラスでは後方でモタモタする事が多いんだけどね。
「結くん、なんか元気無さそうだったけど…今はちょっと大丈夫そう。体調悪いなら無理しない方がいいよ」
朝の僕の酷い表情を見ていた陽くんが心配してくれるけど、さっき気持ちを切り替えた僕は平気だ。
「うん、ありがとう。今は大丈夫だよ」
「そう…?」
僕がそう答えると、陽くんがまだ心配そうにしてくる。
「もしダメそうなら保健室行くし、大丈夫!」
「うん。それならいいよ」
陽くんがホッとひとつ息を吐きながら笑った。
やっぱり陽くんが友だちで良かった。
優しいから大好きだ。
「そうだ。今、近江くんの家っておじいちゃんが危ないんだってね…」
陽くんが少ししんみりとした心地で言う。
僕はビックリして目を向けたら、陽くんが口を尖らせた。
「えっ⁉何で陽くんが知ってるの?」
僕が驚きの声を上げると、陽くんが変な顔をした。
「僕だって知りたくないっていうか、知らなくてもいいんだけどさ~。近江くんがさ…」
そういってスマホを取り出して、こちらへと画面を向けてきた。
そこには、陽くんと翔と思われるふたりのやり取りがあった。
『じいさんがヤバイ。これから、病院行ってくる』
『分かった。おじいちゃん、お大事に』
『ありがとな。また連絡する』
そのやり取りを見て、僕はふたりが本当に友だちになっている事実に改めて驚いた。
「ちょっ、いつの間にこんなに翔と仲良くなったの⁉」
その僕の問いかけに、陽くんは益々苦渋の表情を浮かべた。
「…それには色々なことがあって。」
キーンコーンカーンコーン
そこで丁度一時間目のチャイムが鳴り始める。
「また後で話すよ」
そう言って席に戻る陽くんの背中が疲れていた。
「大丈夫かな?」
僕は先生が入ってきたので、慌てて教科書とノートを取り出した。
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