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第127話 声

先に門を潜り抜けた国見くんが、ノロマな僕を振り返って立ち止まる。 「結斗、遅い」 結斗って呼ばれるの少し照れるかも。 家族以外で「結斗」って呼び捨てするのは、おじさんと翔くらいで、陽くんは「結くん」って僕のこと呼ぶし。 いつも苗字だからなぁ…不思議な感じ。 でも、それだけ距離の近い友達っぽいかも。 「結斗」 あっ、しまった! 「ご、ごめん‼国見くん‼」 慌てて駆け寄ると、どんくさい僕は案の定門のレールで足を引っ掛け転びそうになった。 「わあっ⁉」 悲鳴をあげた僕を逞しい腕が助けてくれた。 「…ふうっ」 「ご、こめん…」 国見くんに呆れた溜め息をつかれてしまった。 僕と友達になって早くも後悔してる? しゅんとなりながら顔を上げると、予想以上に近い所に国見くんの顔があった。 ドキッとして、胸が早鐘を打つ。 同じ男同士でも、イケメンは心臓にやっぱり悪いみたいだ。 「蓮司って呼べって言っただろ?」 そうだった。 「…うん。ごめん。あと、ありがとう蓮司くん」 僕が謝って、それから助けてくれたお礼を言うと、蓮司くんは優しい顔で「よし」と頭を撫でてくれた。 僕、子どもじゃないんだけど…。 僕が軽く蓮司くんを睨み上げた時だった。 「結斗…‼‼」 叫ぶような声が聴こえて、それは僕の耳と心と全てを震わせるには充分な…‼ 待っていた声。 その艶めいて張のある、毎日聴いていた大好きな人の声だ。 僕は顔を嬉しさに歪めてしまう。 涙が滲みそうで…。 蓮司くんの腕の中から声の方へと顔を向けると、そこには待ち望んでやまない大好きな海里おじさんの姿があった。 「おじさん…っ‼‼」 僕は蓮司くんの腕の中からスルリと抜けると、海里おじさんの所へと走り寄った。 おじさんも同じ様に僕へと駆け寄ってくれる。 「結斗……ッ‼‼」 目の前まで行くと思いきり抱き締められる。 力が入っていて少し苦しい。 だけど、そんなことは気にならなかった。 それだけ僕もおじさんと早く会いたくて、声が聴きたくて、抱き締めて欲しかったから! おじさんは耳元で「会いたかった」と囁いてくれた。 久し振りに嗅いだ海里おじさんの匂いは、甘くて爽やかなフレグランスの香りで、僕は夢を見ているのかと少し疑ってしまう程だった。 「僕も、会いたかったよぉ…っ」 「結斗」 見つめ合うと、紅茶色の綺麗な海里おじさんの瞳に僕の顔を映り込んでいた。 それもユラユラと揺らぎはじめて、おじさんに優しく涙を拭われて僕は幸せを噛み締めた。

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