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第130話 一瞬が全て大切

おじさんの運転する車は家とは反対の方向へと向かう。 「ねぇ、おじ…海里さん。家に帰るんじゃないの?」 「ん…その予定だったけど変更」 ハンドルを握ったおじさんがフッと笑った。 「寂しくしていたお詫びに、美味しいものを食べに連れていってやるよ」 「で、でも…」 嬉しい気持ちはいっぱいだった。 会いたくて会いたくて堪らなかった人が目の前に居る。 独占している挙げ句に、美味しいものを食べに行けるなんて普段の僕なら嬉しくて声を上げて喜んだと思う。 だけど、おじいちゃんが亡くなって美奈おばさんも翔も落ち込んでる時にそんな申し訳ないと思うから…。 「結斗の考えも気持ちも分かるよ」 「え?」 僕の考えなんてお見通しだとばかりに、おじさんがそう言った。 「確かにお義父さんが亡くなって直ぐだしな、不謹慎と思うかもしれないけどな結斗。俺たち生きてるからな。今、生きていてこれから長い時間を生きていく」 赤信号になる。 車が静かに停車した。 「それを当たり前に思ってるだろ?」 おじさんが僕を見た。 「当たり前じゃないよ、結斗…」 「…」 車内はおじさんが大好きなクラシックが静かな音量で流れている。 「お義父さんの死が教えてくれた。生きていて当たり前じゃなくなる時が来るんだよ。それが何時かなんて誰にも分からない」 青になって、車がまた走り出す。 「毎日が、この今、一瞬が全て大事なんだって…。だから、生きている俺たちは、この瞬間も大切にして過ごさなきゃいけないんだよ」 おじさんの横顔は、とても真剣だった。 「愛し合える時間は思ったほど長くないよ、結斗…。なんだかんだ俺が先に旅立つからね。少しでも長く結斗と過ごして思い出を作りたいんだ」 おじさんの声が僕の心を包み込む。 僕も同じ気持ちだよ。 でも、最後の言葉は寂しすぎるから言わないで。 いつかなんて分からないけど、おじさんと離れる時が来るかもしれない。 おじさんの方が歳上だから…。 想像しただけで胸が苦しくなって、僕は鼻の奥がツーンとなった。 涙が出てしまう。 「ゆ、結斗…⁉」 おじさんが、グスグスと嗚咽を漏らし始めた僕に慌て始める。 「ま、待て‼泣くなよ~‼」 おじさんが車のスピードを上げて何処かへと滑り込んで駐車した。 「結斗…‼」 大きく逞しい腕が僕を抱き締めて、暖かさで包み込んでくれた。 それだけで幸せで、その分嬉しさと、いつか訪れるだろう孤独に涙が余計に溢れてしまう。 暫く僕の視界は、滲みっぱなしだった。 ◇◇◇◇◇ 私事ではございますがリアルで哀しい出来事がありました。 不思議なもので、漸く気持ちが落着き元気を出そう‼いつも応援して下さる読者の方の為にもと更新したらば内容が(そういえば、こんな展開だったな…)と。 皆さんも一瞬が全て大事なんだと改めて思いながら、素敵な毎日をお過ごし下さい(*´ω`*)

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