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第42話 恋人だよね?

「か、翔…っ!」 まさかまだ翔が居たなんて思いもしなくて、僕は取り乱した。 こんな事している姿を見られた。 翔が僕達に向ける視線が気のせいか、痛い。 「翔。ご飯を食べたら学校に行きなさい」 戸惑う僕とは反対に、おじさんは至って冷静だ。 「えーっ、昼からとかだりぃし、めんどくせー。オヤジだって仕事サボってんじゃん!」 心底面倒くさそうに顔を顰める。 「それは自業自得だろう。朝帰りとか、連絡位入れなさい。それに仕事は有休を取ったから大丈夫だ」 「有休とか…卑怯。それにしても、オヤジに言われたくねぇし~!独身の時なんかぜってーに、遊び歩いてただろ?」 唇を尖らせて文句を投げる息子に、父親の顔が変化する。 「ふふっ。まぁ、オマエより激しかったのは認めようか」 色気を孕んだ企む大人の顔だ。 「母さんには内緒にしてやるから、今度からは連絡だけは入れるようにな」 おじさんは直ぐに父親の表情になる。 「それと、自分で責任取れる行動をすること。警察の厄介にだけはなるなよ。父さんは一度もヘマはしたことないからな」 「へいへい。了解でーす」 おじさんとの約束に、翔は軽く手を上げて返事をすると、部屋から出ていった。 「さて、邪魔者は居なくなったからゆっくり食べられるよ。ほら口開けて」 おじさんが優しく微笑みながら箸を向けてくる。 差し出されたおかずを「あーん」して、もぐもぐ咀嚼する。 おじさんが作ってくれたっていう事実が嬉しくて、どんな顔をして会えばいいのかとか、あんなに乱れた恥ずかしさも頭の隅に追いやる事さえ出来た。 僕の悩みって、一体どの位の物なんだろう。 あんなに悩むのに、おじさんが優しく微笑んでくれるだけでどうでもよくなってしまう。 昔からそうなんだ。 学校で嫌なことがあったり、翔と喧嘩をしたり、自分の思いが通らなくておじさんにヤツ当たった時も…。 いつだって海里おじさんに微笑まれ、頭を撫でられ、抱き締められたら心が落ち着いた。 ん? それって今でも変わらないんじゃ…。 どれだけ海里おじさんに頼っているんだろう。 そして、心から慕っていたんだろう。 そう思うと、僕のおじさんへの依存度が限りなく高いことに気づかされる。 そんな僕がおじさんから離れることが出来るのかな? 離れたらどうなるんだろう…。 無意識にジッと見つめていたみたい。 「そんなに見つめられると、照れるね…」 チュッ 「玉子焼きの味がする」 僕に口づけた後、おじさんがそう言いながら笑った。 あんまりにも幸せな顔をするものだから、僕も誘われるように笑い返した。 「結斗。昨日のセックスで俺を求めてくれたよね?」 恥ずかしいけど、それは事実だった。 抵抗も見せず最後はおじさんを求めていた。 「今日から結斗は俺の恋人だよね」 恋、人…? その言葉に心臓を高鳴らせた。 今、僕の顔は絶対に赤いに違いない。 恥ずかしくて仕方無いのに、視線を逸らせない。 「そうだね、結斗?」 視線が絡まって離せない。 言い聞かせる様に、もう一度念を押される。 僕とおじさんは恋人同士…。 暗示にかかっているかの様に、僕はゆっくりと頷いた。

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