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第50話 B定食とチーズケーキ

券売機の前で、僕はまたしても唸っていた。 おじさんの事をぼんやり思い浮かべている間に、あっという間に順番が回ってきていた。 優柔不断な僕だから、安くてお得な定食にすることは決めたけど、ABCのどれにしようかと悩んでしまって…。 お金を投入したので、券売機がピカリと光っていて、釦を早く押してくれと催促している様だ。 「うーん…」 学食の定食は、毎月メニューが変わるらしい。 子ども心にウキウキするだろうけど、好きなメニューが変更で無くなると寂しいだろうなぁ…。 いや、そんな事よりもだ。 A定食は、メインがハンバーグ…あんまり好きじゃない。だけど、デザートがなめらかプリンなので心惹かれる。 B定食は、メインが白身魚のフライでタルタルソースが載っている。大好きなんだけど、デザートがコーヒーゼリー。 …コーヒーゼリー嫌い。 C定食はカレーライス。 子どもから大人まで皆好きかもだけど、僕は辛いのがダメだから却下だ! デザートは大好きなチーズケーキ~!! 誰が献立を決めたのか…怨めしい。 「おい、コラ」 僕が券売機を睨んでいると後ろから、低音で迫力のある声が降ってきた。 僕が振り返ると、目の前には相手の胸板が…。 ピッ! 「えっ?」 音がして振り向くと、券売機から食券が出てきていた。 手にしてみると、そこには『B定食』とある。 「遅せぇんだよ。退けよ」 肩を押されて横へヨロリと列から外れる。 気がつけば、僕の後ろに結構並んでいた。 皆に迷惑かけていたんだと思うと共に、だけど酷くない?とも思った。 優柔不断な僕が悪かったと思うけど、何もイキナリ釦を押すことはないと思うんだけど!? まぁ、好きなメニューだからいいけどさ。 「でもコーヒーゼリー嫌いなのに…」 プウッと膨れつつも、仕方無いとB定食を受け取りに再び列に並んだ。 並んでいる途中に連絡が入る。 席を確保出来たというので、室内をグルリと見回すと、丁度中央に陽くんが座っているのが見えた。 「ふふっ」 僕が手を振ると、陽くんもニコニコ手を振ってくれた。 そうこうしている間に、僕のB定食が出される。 受け取って歩き出した僕の後ろから、ニョキッと腕が伸びてきた。 「うわっ!?」 「…代えてやるよ」 その声は、さっきの人のものだった。 僕のコーヒーゼリーが取り上げられて、代わりにチーズケーキが載せられた。 「お前さっき、コーヒーゼリー嫌いって言ってただろ…?」 「あ、ありがとう…」 そう言いながら見上げると、少し上に整った顔が。 その相手は、知っている人だった。 「あ。お前、結斗!?」 「あ、翔の友だちの。国見くん」 国見くんは、翔の一番の友人で(親友では無いらしい…意味が分かんない)、僕の手作りおやつの差し入れを喜んで食べてくれる人だ。 「悪かったな、さっきは。お前とは思わなくてよ」 国見くんが気まずそうに頭を掻く。 「ううん。僕がなかなか決めなかったからゴメンね」 僕がシュンとなると、国見くんが顔を覗き込んできた。 「確かにな」 「っ!!」 マトモに言われて益々凹んでしまいました…。 事実だから仕方無いケドネ。

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