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第53話 プチトマトの怨み

陽くんの後ろ姿を見送っていると、隣の国見くんが話しかけてきた。 「どうした。食べないのか?」 「えっ、いや…陽くんが戻ってきてからにしようかなぁと」 僕が答えると、国見くんが「ふーん」と興味なさそうに返事した。 「ところで、お前さぁ…よく差し入れしてくれてるけど無理してないか?」 まさかの発言に僕は国見くんの顔を凝視した。 「えっ、そんな全然無理してないよ!?」 そう答えると国見くんの表情が柔らかく砕けた。 「そっか?なら良かった。無理させてたら悪いしな」 その笑顔にドキッとする。 「結斗」 「な、何?」 すると国見くんの顔がズイッと近づいた。 イケメンの顔は見慣れてる筈なんだけど、やっぱり普段付き合いのない相手だと恥ずかしい。 たぶん今、僕の顔は赤くなってる。 「いつも、ありがとな」 おじさんとは違う低い声に耳が震えた。 おじさんにしても翔にしても、国見くんにして本、当、に!イケメンってイケメンって…!! 何だか疲れが再び襲ってきて、僕は溜め息混じりに「どういたしまして」と答えた。 その後、戻ってきた陽くんと翔が食べ始めたのを見てから僕も再び口へ箸を運んだ。 「待っててくれたの!?ゴメンね~っ」 と、慌てる陽くんに僕は首を振った。 「いいよ~そんな。僕の時も陽くんが待ってくれてるでしょ?」 「そうだけど、冷めちゃってるよ~」 陽くんが眉を垂らしたのを見て、僕は笑った。 「それを言うなら僕の時は、陽くんのが冷めてるから~!」 「それはそうだけどさ~」 僕が食い下がると、陽くんは諦めた様に口を尖らせた。 「お前らどうでもいいけど、早く食ったら?余計に冷めるぜ」 そんな僕たちに呆れた視線をチラリと寄越してから翔がガツガツと食べ始める。 陽くんが目に見えてビクリと肩を揺らした。 「そうだぞ。早く食っちまえよ」 反対に座っていた国見くんも一言漏らすと、再び口へと定食を運ぶ。 「た、食べようか」 「そ、そうだね~…」 僕が言うと、陽くんが頷いた。 ふたりでアワアワしつつ、漸く言い合いを止めて食べ始めた。 冷めたといっても全然問題ない。 お魚が美味しい。衣サクサクだし、タルタルソースも僕の好みだった。 でももう少し衣は細かいのがいいかなぁ~? タルタルソースは参考にして、今度の土曜日にでもシーフードフライを作ろうかな。 確かおばさんも仕事で遅いし、翔も遊びに行ってるから大々的に台所使わせて貰えるから。 おじさんの好きなホタテもフライにして~、僕もエビをたーくさん揚げちゃおう! あっ、あとその日はデザートも手作りにしよう! おじさんが好きな物にしようかな? それとも…。 「うーん…。何にしようかなぁ~?」 「旨いか?」 「わあっ!?」 僕が箸を止めて思考を巡らせ始めると、国見くんが訊いてきた。 違う世界へと旅立っていた僕は慌てて返事をした。 「驚きすぎだろ…」 なんて呆れた顔をされた。 「ご、ゴメンね。考え事してたから…」 「何。飯食ってる時くらい考え事すんなよ。旨くねぇだろ?」 国見くんがそう言って僕のお皿から最後にと思い取っておいたプチトマトを失敬していった。 「あっ!!」 パクリと大きな口にアッサリと放り込まれた。 そのモグモグ咀嚼する様子にショックを隠せない。 「も、も~!!僕が取っておいたのにぃ~!」 余りの怒り?に、普段付き合いのない相手にしない行為をしてしまう。 腕にすがり付いて揺さぶるが、国見くんはビクともしない。 「えっ、そうなのか?悪かったな」 なんて、悪かったと思ってもなさそうな口調で髪の毛をクシャクシャされる。 誤魔化された…。

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