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第54話 ふたり
楽しくもちょっと心臓が煩いお昼ご飯の時間が終わった。
僕は午後からの授業の為に陽くんと教室へと戻った。
そんな僕達とは反対に、翔達はサボる様でグダグタと教室のある方とは反対へと歩いて行ったのを見た。
「ううっ、最悪。サボるなんて」
「本当に。僕も翔に何回か言ったんだけど、生返事ばっかりだよ」
陽くんの呟きに僕も頷いた。
「翔は適度にサボっても頭が良いから、テストは問題ないし、出席日数やその他諸々計算して動いてるんだよねぇ…」
「何それ。世の中不公平だ!」
確かにイケメンで頭も良くて、家はお金持ちなんて…どれだけ恵まれてるんだろう。
不公平だなぁ。
「いいもん!僕は真面目に地道に生きるもん」
陽くんがほっぺたを膨らませて、ふんっと顎を上向かせた。
「ふふっ。僕も同じ~!いいもんね!」
「そうだよ、そうだよ~!僕達は僕達なりに頑張ろ?」
陽くんが両腕をガッツポーズさせる。
「そうだね~!僕達ふたりで頑張ろうね。真面目にしてたら良いことあるよ、きっと!」
僕も同じ様に拳を握って、上を見た。
神様だって見てるからね!
真面目に生きていたら良いことあるはず!!
そんな僕の気持ちを裏切る事件が起きるのでした…。
僕は午後からの授業を真面目に受けた。
何だかちょっと眠くなったりしつつも、黒板をせっせと写して、気がつけばもう放課後になっていた。
「それじゃぁ、僕行くね。バイバーイ」
「うん、部活頑張ってね」
陽くんが鞄を手にして立ち上がると、僕も同じ様にして廊下へと出た。
お互いに手を振り合って、別々の方向へと別れた。
僕の美術部は、個人がそれぞれ思い思いの時間に参加する様になっている。
少し前に描き上げたので、また気持ちがキャンバスへ向き合いたい!!と思った時に行こうかと思っていた。
だから今日は帰ることにした。
僕が階段を降りていると、後ろから軽快なリズムで横をすり抜けて行く人がいた。
階段を曲がったその人と目が合う。
「おっ」
「あ」
そこで立ち止まったのは、お昼にご飯を一緒に食べた国見くんだった。
「今から帰るのか?」
「うん。国見くんは?」
僕が聞き返すと、国見くんは「俺も」と答えた。
「せっかくだし、一緒に帰るか?」
国見くんに提案されて、首を傾げた。
「他の人は?」
翔は部活だろうけど、他のメンバーはどうなんだろう。
「あ~アイツらね。翔と和希と太一は部活で、それ以外はサボって帰っちまったからな」
誰が誰だかイマイチまだ判ってない…人数居るし、入れ替わり立ち替わりでおやつの差し入れを食べてくれるもんだから。
今度は覚えるようにしよう…。
僕が決意を新たにしていると、国見くんが口を開く。
「俺は帰宅部だけど。お前は?」
国見くん、帰宅部なんだ…。
いやいや、帰宅部なんて本当は無いけどね。
「僕は美術部なんだけど、今日は部活無いから」
そう答えると、国見くんはフッと笑った。
「なら、一緒に帰れるな」
そんな事で嬉しそうに口元を緩められると、ドキッとしてしまう。
ううっ、イケメンって目の毒かも…。
おじさんと違う笑い方。
直ぐに海里おじさんと比べてしまう自分に呆れてしまう。
あんなに戸惑い罪悪感のあった関係が、早くも当然になろうとしていた。
気持ちって、分からないものなんだなぁ…。
そんな事を思いながら、ふたりで校門を目指して並んで歩く。
会話は国見くんから振ってくれるので、沈黙は無い。
かと言って、煩くもない落ち着いた会話。
国見くん、大きいなぁ…。おじさんとどっちが高いかな?と見上げていたら、国見くんが視線を反らせたままブツブツ言い始めた。
「?」
どうしたんだろう?
「ッ、そんなにコッチ見んなよ…」
そう言った国見くんの顔は赤くなっていた。
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