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第55話 芸能人あらわる
不思議そうに僕が首を傾げていると、国見くんがどんどんと先へと歩き出した。
えっ、ちょっと待って…!
慌てて隣に並んだ僕に漸く国見くんが歩調を合わせてくれる。
一体急にどうしたんだろう?
「急に悪かったな…」
「えっ、あ。いいよ、気にしないで?」
そう言ったもののちょっと疑問に思いつつ門へと向かう。
ふたり並んで歩いていくと、その先には門を潜り抜けていく生徒達が居る。
徒歩だったり、自転車だったり。
ひとりの人や数人で帰る人達。
普通の光景なんだけど、違和感を感じる。
「何だ?」
「何だろうね?」
帰っていく生徒達が同じ方へと視線を投げている。
気にしながら帰る人も居るけど、殆どの人が門の辺りで立ち止まって、ソワソワしているから本当に気になってしまう。
殆どが女子生徒だ。
「芸能人でも現れたか?」
「えっ、芸能人!?僕見たことない…っ」
国見くんの言葉に、僕は過剰反応してしまう。
だってだって、生の芸能人なんて会ったことも見たこともないんだもん!
そんなに興味が無くても、やっぱり一度は見てみたい。
「国見くん!ちょっと見てみようよ」
「はぁ…仕方ねぇなぁ」
そう言いつつも国見くんは、腕を引かれるままに歩き始めた。
僕は国見くんの腕を引いてそっちへと向かう。
女子生徒の幾重にもなった輪の後ろから僕は背伸びをして、芸能人の姿を確認しようとした。
「ん。何?芸能人でも居るのかよ?」
背伸びをしても前をあまり確認出来ない僕に代わって、国見くんが顔見知りらしい女の子に声を掛けた。
「きゃっ、国見くん!?あ~芸能人っていうか、モデルらしいよ!」
国見くんに声を掛けられて、顔を赤くしながらそう教えてくれる。
うん。イケメンパワースゴいな。
この子、きっと国見くんが好きなんだろうなぁ…。
カッコイイし、性格も男前だしね。
「?」
すると、その子がジッと僕を見た。
一体何?と首を傾げるとプイッと反対を向かれた。
「見てみて~超カッコイイんですけど~!」
「ヤバイよね!?」
なんて声があちこちで上がっている。
どんなにイケメンなモデルなんだろ?
僕って雑誌とかあんまり見ないし、テレビも野球以外はそこまで見ないから顔を見ても分からないかも…。
取り敢えず、顔だけでも見てみたい。
「見えるか?」
「み、見えない」
僕が首を振ったのを見て、国見くんがクスッと笑う。
「ムッ。どうせ背が低いよ…」
「悪いって…。そんなつもりはなくて」
「もういいよ…」
爪先立をする僕を気遣って、国見くんが顔を近づけた時だった。
「離れろ」
底冷えするような、それでいて耳に心地よい声がした。
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