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第56話 注目

間違えようもないカッコイイその声。 顔をそちらへ向けると、そこには芸能人も真っ青な人が立っていた。 「え…えぇぇ~?」 まさか、こんな場所に今居るとは思わない。 しかも…どうしたの? その格好は…!!? 海里おじさん…だよね? いつもはきっちり髪の毛をセットして、オーダーメイドのスーツでビシッと決めて、黒の高級車に乗っている。 落ち着いた仕事の出来る大人の男性といった風(実際そうなんだけどね)のおじさん。 だけど、今日は違う。 髪の毛は自然な感じで、軽くセットしている。 服は爽やかなデザインの白いシャツ。 足の長さを強調するような紺にストライプラインの入ったパンツ。 靴もお洒落だし…。 第一に、そのサングラスは何? まぁ、鼻筋の通った顔だから似合うんだけど。 普段とかけ離れた姿に驚いて、声も出ない。 しかも、車も黒なのに派手なスポーツカータイプ。 「何で…?」 普段、迎えに来るときは連絡が入るし、門を出てから少し先の角を曲がった辺りに目立たない様に車を停めている。 門からは死角でも教室からは見える。 僕はおじさんが迎えに来てくれる日は、窓から車が到着するのをまだかまだかと待っている。 それなのに、今日は連絡も無しでこんなに目立つ場所に目立つ格好で現れるなんて。 「結斗に近づきすぎだ」 そう一言呟くと、長身に見合った長い足でどんどんと近づいてくる。 周囲もキャーキャー言いながら道を開ける。 何なの…この変な雰囲気は。 颯爽とモデル顔負けのウォーキングで一気に詰めよって来たおじさんは、グイッと僕の肩を抱き寄せた。 すると、再び周囲が悲鳴の様な歓声の様なものを上げたので、思わずビクーッとなる。 「迎えに来たよ。さぁ帰ろう」 「あ…」 おじさんはそう言うと、肩を抱き寄せたまま歩き出す。 僕は夢見心地で見惚れながら歩き出したんだけど、ハッと思い出す。 そうだった、国見くんと帰る予定が。 「あ、友達が…っ」 勝手に友達認定したけど、僕と国見くんはあってるよね? 「フッ…友達ねぇ?」 おじさんは、ピタリと立ち止まるとサングラスを外してクルッと振り返った。 口元に笑みを湛えて…。 「結斗と仲良くしてくれて感謝しているよ」 「…」 おじさんの言葉に国見くんは黙ったまま。 そして何故か視線を交わしあっている。 イケメン、迫力、怖い。 そして、サングラスを外して益々イケメンオーラ全開のおじさんに周囲は騒然となる。 なんだか大変な事になった~!! 「く、国見くん…ゴメン!!急に迎えが来ちゃったみたいだから、また明日ね!」 二人も周囲の様子も怖くて見てられなくて、僕はそう声を上げていた。 「分かった。あぁ、また明日な」 すると国見くんが、いつもの調子で言ってくれる。 良かった。怒ってない。 「結斗、行くよ」 「う、うんっ」 おじさんに急かされて、僕は慌てて足を動かして着いていく。 「さぁ、乗って」 恭しく誘われるまま車に乗る。 閉まるドア。 ゆっくりと車が走り出した。

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