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第57話 涙

助手席の僕は、隣のおじさんをチラリと見る。 「ねぇ、おじさん。今日は迎えの連絡無かったよね?あと、その格好どうしたの?」 すると、おじさんは前を見たまま口を開いた。 「結斗。俺が連絡無しで迎えに行ったら迷惑だったのか?」 「えっ、いや、迷惑じゃないよっ?だけど急に来たからビックリしたし」 慌てて答えると、おじさんは不機嫌ですといった様子を隠しもしない。 さっきと違う態度に驚く。 迎えに来てくれた時には微塵もそんな感じは無かったのに…。 「普通は恋人が来たら喜ぶもんだと思うけどね」 「こ、恋人…っ」 改めて言われると恥ずかしくなる。 顔がカーッと赤くなっているに違いない。 「違うの?」 いつになくツンとした態度に驚く。 「まぁ、結斗には始まり方からして不本意だっただろうから仕方ないか」 おじさん、何でそんな言い方をするんだろう。 「た、確かに初めての時は驚いたし…今も悩んでるけど…。で、でもっ僕は嫌じゃないよ?」 「…本当に?」 「ほ、本当に!本当だもん!!」 おじさんに疑われてる。 何でだか分からないけど、僕がこの関係を喜んでないと思ってるみたいで、戸惑ってしまう。 「結斗、こんなに歳上の男よりも同じ年齢の恋人がいいんじゃないのか?」 「そんなことないよ?だって、僕は…」 おじさん怖い…。 いつも優しく微笑んでくれるおじさんが、今日はトゲトゲしていて怖い。 いつもだったら運転中でも信号で止まったときはこっちを見てくれるのに、今日は1度も見てくれない…何で? 何かしたのかな、僕。 こんなの嫌だよ…おじさんがこのまま僕を知らんぷりしたりしたら…うぅっ、涙が出てきた…。 「うっ、ううっ…」 押し殺しても嗚咽が止まらない。 「な、なん…何で、そんなこと言うのおぉ~?僕~そんな、ふ、風にっ…思ったことないもん~うっうっ、ふっうぅ」 高校生にもなって、こんなに泣くとは思ってなかった。 おじさん怖いよ。 いつもの笑顔でこっちを見て欲しい。 何で怒ってるの? 涙を何度拭っても止まらない。 僕は両手で顔を覆ったまま俯いた。 このまま涙が止まらないかもしれない…。 「…結斗。意地悪して悪かったよ」 すると、車が停車したのを感じる。 「結斗」 優しい声と共に温かいものに包まれた。 おじさんの大きな掌で頭の後を撫でられる。 「結斗…俺の事、好きか?」 今更何を言ってるの? 昔から好きだよ…。 こんな関係になって悩んでるのも事実。 だけど、僕の気持ちは正直に傾いてきている。 「グスッ…す…好、き」 嗚咽を堪えて気持ちを言葉にする。 好きだと認めてるよ。 これだけは事実。 「…大好きだもん…」 呟くと、 「俺もだよ…」 そういって、おじさんが益々僕を優しくも強く抱き締めてくれた。

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