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第59話 本当にモデル

「でも、ひとつ言っておきたい」 「?」 おじさんが口を尖らせてこう言った。 「朝、迎えに行くから連絡くれって言っておいたはずだけど?」 「…」 … …っ …あ~~~! 忘れてた!すっかり、お昼のバタバタで忘れてた~! 「ご、ごめんなさ~い」 「思い出したのなら宜しい」 頭を下げた僕に、おじさんが慇懃無礼な感じで応えたのだった。 それから漸くいつもの様子に戻ったおじさんは、ご機嫌にハンドルを握っていた。 鼻歌も飛び出しかねない雰囲気で、口元に微笑が見える。 車は順調に進む。 「ねぇ、おじさん。さっきも訊いたんだけど、今日は本当にどうしたの?」 いつもと違う格好に、やっぱり気になって疑問を口にする。 すると、溜め息混じりに答えてくれた。 「あぁ、これな。実は雑誌の会社の社長直撃とかいう企画があって…その対談の中で普段のスーツ姿以外も頼まれて仕方無くな…モデルみたいにポージングとらされるし、チッ」 舌打ちまで飛び出した。 「そんな企画があるんだぁ…」 感心したように僕が呟くと、おじさんは口を尖らせた。 「ったく、何だってこんな企画…って思ったけどな。その雑誌の影響力は凄いらしいんでな…仕方無くこの格好だよ。この歳になって爽やかな服とか、恥ずかしくてやってられるか!」 でもやっているっていうことは、それだけ凄いからって事だよね? 「ねぇ、それ何て言う雑誌なの?…僕見てみたいな…」 そう言うと、おじさんが複雑な表情でチラッと僕を見た。 「…本物目の前に居るぞ」 「どっちも見たいんだもん…」 ほぼ毎日本物のおじさんを見ている。 だけど、雑誌に載ったおじさんも見てみたい。 だって、だって…。 好きな人ならどんな些細な事でも見逃せないと思うんだけど、おじさんはどうなのかな? 違うの? すると、おじさんが苦笑した。 「そうだな。俺でも結斗が雑誌に出たら絶対に見たいし、絶対に買うからな」 ほら、同じ様に思ってる。 「ね?だから、教えて…?」 僕が懇願すると、急に車は大型ホームセンターの駐車場に入る。 「えっ、何?!どうしたの?」 急な車の動きに驚き声を上げた僕には返事もなしに、端の方へと車を停めると、おじさんがシートベルトを外して覆い被さってきた。 「ひゃあぁっ?!」 びっくりして、僕の声は裏返ってしまう。 いつもと違うおじさんが迫ってきて、熱い唇が重なってきた。 クチュッ、ニュルクチュクチュッ 「んんっ…っ!?」 ハァハァハァ… キスされてる。 気がついた時には、おじさんの掌が僕のシャツの裾から忍び込んできていた。 しっとりとした掌がお腹から胸へと順番に大きく弧を描く様に触れていく。 「あっ、はあぁ…あっ」 呼吸を許さないかの様なキスに、僕は目眩を起こしそうになっていた。 この前ファーストキスを奪われたばかりの僕には、この深いキスに応える技術は微塵も無いわけで…溺れる人間らしい無様さを晒していた。 だけど、おじさんには全く問題無いようで益々荒く口内を犯される。 ピチャ、チュプチュブッ、クチュクチュッ 「あっ、ふっ、…ンンッ」 「…ハァ、ッ結斗っ…」 ニュルクチュッ 「ンフッ、~ンンッ!?」 ゴクッ… 最後に溜まっていた唾液を当たり前のように呑まされてしまう。 不思議に、唾液を嫌だなんて思わなかった。 顎に伝った呑みきれなかった唾液をおじさんが肉厚な熱く優しい舌使いで、ペロリと舐めてくれた。

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