64 / 131
第64話 特別番外編『幼馴染み・後編』
ブブッ、ブブッ
画像を送ってから教室へ戻る。
授業が始まって暫くもしないうちに、小さく着信を報せるバイブ音。
画面を確認すると、緑のtalkマーク。
開いてみると、まさかのオヤジからだった。
《ありがとう、愛しの息子よ!》
はぁ?
今まで愛しの息子なんて言われた事はない。
どうしたオヤジ。キモいぞ…。
ブブッブブッ
《結斗のエプロン姿を見ることが出来て嬉しいなぁ》
そりゃ、良かったな…。
ブブッブブッ
暫く授業を睡魔と闘いながら聞いていると、またバイブ音。
今度は誰だと思えば、またオヤジかよ!?
《もっと写真撮ってくれ》
やっぱり、疑ったのは正解だった。
オヤジは結斗に対して、通常の感情を越えた物を持っている。
ブブッブブッ
《エプロン姿だけでなく、学ランで校内を歩く姿とかも求む》
暇なのか?調子に乗りやがって。
〈面倒くせぇ…〉
ブブッブブッ
《臨時お小遣いは、いらないか?》
要るに決まってる。
〈くれ〉
ブブッブブッ
《交渉成立だな》
仕方無ぇな…今月使いすぎたしな。
〈ちょっと待ってろ〉
キーンコーン、カーンコーン
俺がスマホをいじくり回しているうちに、授業終了のチャイム。
やべっ!授業全く聞いてなかった。
まぁ、俺は頭がいいから別に問題無いんだけど。
自称・友人達が直ぐ様囲みにくる。
暑苦しい。
しかも煩い奴等だ。
「お、結斗君だ~」
暫くすると、教室の前方のドアから結斗が顔を出したのを見た友人が手を挙げてみせる。
それに結斗がペコリと頭を下げつつ、やって来た。
俺はスマホを構える。
カシャッ
手には大切そうに何かを抱えていた。
「これ…、作ったパウンドケーキ」
ラッピングされたパウンドケーキに、男共が「おお~っ!」と歓声を上げた。
どんだけ飢えてるんだ…コイツら。
差し出したパウンドケーキをどうしたらいいのかと、困った顔の結斗も撮る。
「…翔?」
首を傾げたのも撮ってやる。
「おーい、翔。どんだけ結斗君撮ってんの?」
「早くパウンドケーキ食べようぜ!」
友人Aが甘い匂いに誘われて、パウンドケーキに手を伸ばす。
「わわっ」
勢いに押されて結斗が目をパチクリ。
その姿は、男共に襲われているかの様だ。
パシャパシャ
「ひとくち。ん、ウマイ!」
「どれどれ。お~、ウマイ!!」
ケーキを褒められて嬉しそうに、はにかんでいる。
友人共をどこか怖がっていた結斗。
それが今は、カワイイ顔でケーキを食べているヤツらの姿を見守っている。
…カワイイ?
いやいやいや。男だぞ?
俺、オヤジに感化されてきたかもな…。
それにしても結斗って…ソコらの女共よりも男惑わすフェロモンでも出てんのか?
人に厳しく、自分に甘いヤツラがすっかりなついてる…。
カシャッ
男共に囲まれて、ぎこちないまでも笑顔の浮かんだ結斗を撮ると、俺はオヤジに一連の写真を送ってやった。
ブブッブブッブブッブブッブブッブブッ
ん?オヤジから着信?
「あ~オヤジ?何?」
『おいっ、翔!結斗の回りの男共を何とかしろッ!!』
「…」
プチッ
うるせぇから、スマホを鞄の中へ封印。
その後もスマホが唸っていたが、無視だ無視。
その日の夕方、オヤジが結斗を車で迎えに来ていたのを見かけた。
息子を置いといて、隣人の子どもかよ。
…オヤジのやつ…。
男共は、それ以来結斗を見かけると嬉しそうに声を掛ける様になった。
結斗はというと、定期的に手作りお菓子の差し入れを行うようになった。
どこからどう見ても男な幼馴染み。
フェロモンでも出てるのか?
まさかな?…俺は気をつけよう。
ともだちにシェアしよう!