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第66話 王子のお洋服

僕を乗せたおじさんは、ある店の駐車場に入ると降りるように促した。 「あ、ありがとう」 「いえいえ、王子。足元に気を付けて下さいね」 「王子って、もう!」 「アハハ」 ドアを開けられたエスコートする様は、惚れ惚れとする。 だけど、僕をからかうことも忘れない。 僕が連れてこられたのは、お洒落な…うむ。高そうな洋服のお店だなぁ。 いらっしゃいませ~! なんて声は掛かる事なく、ひとりの紳士的な雰囲気の店員さんが即座にやって来た。 おじさんより年齢は上の様だ。 「近江様、ようこそお越しくださいました」 「うん。急に来てしまって悪いね」 「滅相もございません。本日はどの様なお召し物をご希望でしょうか」 常連客である様で、お店の人も当然の対応をしている。 他にも店員さんが数名、端の方に控えている。 服なんて、お母さんと出掛けた時にデパートやチェーン店でカジュアルな…地味な服しか買った経験がない。 だから、こんな店の雰囲気に圧倒されてポケーと突っ立ているしか出来なかった。 「俺はいいんだ。この子とこれから出掛けるから見繕って欲しい。ヨロシク」 ぼ、僕?! 「畏まりました。では、何点かお持ち致します」 「こちらへどうぞ」 女性店員さんに声を掛けられ、勝手知ったるおじさんのエスコートで別室へと案内された。 「失礼致します」 直ぐ様、さっき控えていた若い男性がやって来てサッと前に出てきたかと思うと、僕にメジャーを簡単に当てた。 「ありがとうございました」 そう言うと頭を再び下げる。 「どうぞお掛けになってお待ち下さい」 ポカーンとして店員さんを見送っていると、女性店員さんに言われ我に返る。 すると、おじさんがソファに座ってクックックッと笑っているのが見えた。 「慣れてないんだもん。仕方ないじゃん」 それでも笑うおじさんに、僕はドスッと体当たりをかました。 「ごめん、ごめん。カワイイ結斗~機嫌直してくれ」 おじさんが抱きついて僕の頭に頬擦りしてくる。 「反省した?」 「反省したした。しました」 反省してないのはアリアリだけど、僕も本気で怒ってる訳じゃないからね。 「なら、いいよ。許してあげる」 「フフッ。ありがとう結斗。優しいところも好きだよ」 そんなやり取りを終えて、おじさんに寄りかかった時に、この場に店員さんが居ることを思い出した。 慌てて起き上がると、店員さんと目が合う。 ニコニコっと笑顔を浮かべられたので、僕もひきつった笑顔を向けてみた。 「お飲み物、何に致しましょうか?」 そう言った女性店員さんの顔が赤いのは気のせい…と思いたい。 本当に、恥ずかしい…。

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