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第67話 似合いのふたり
居たたまれない思いをしつつも、お茶を頂き店内をキョロキョロしている間に、先程の店員さんふたりがやって来た。
「大変お待たせ致しました」
「こちらをご用意させて頂きましたので、ご確認下さい」
若い男性店員がそう言うと、後ろに控えていた別の店員さんが丁寧な仕草で近くのガラスの台へと服を広げた。
「本日の近江様に合わせて選ばせて頂きました」
「うん。どれも似合いそうだ」
おじさんが頷いた。
うん。普段僕が着なさそうなタイプの服だ。
「お連れ様はお髪は黒、肌は色白で全体的に華奢でいらっしゃいますので、色は明るめで淡い色の物を持ってきてみました」
中に着るためのシャツの色は、普段馴染みの無い薄い桃色や水色やエメラルドがある。
他にも軽く羽織る物もこれまた薄い色が多い。
「濃い色も考えたのですが、本日の近江様の服に合わせる事を考えますと、こちらの三点がより似合われるかと」
「ここはポイントで濃い物を持ってきてみては如何かと」
おじさんは少し考えてからシャツに、リボンタイとパンツを選び僕に向き直った。
「結斗。これを着てみて」
「…これ?」
コーディネートのコの字も知らない身としては、任せるしかない。
だけど、こんなの似合わない。
絶対に!
恥ずかしいけど着るしかないので、僕は試着ルーム(本当に部屋だった!)へと入った。
「似合わなかったらどうするんだろ?」
僕は襟にラインが何本か入った薄い桃色のシャツに細身の紺色のパンツを履いて、紫のビロードのリボンタイを首に引っ掛けた。
結び方分からないから…仕方ないでしょ。
「ど、…どう?」
部屋に用意されていた新しい靴を履いて、出てみると海里おじさんがソファにふんぞり返っていた。
だけど僕が部屋から一歩踏み出して見るとおじさんがツカツカ音を立てながら近づくとリボンを器用に結ぶ。
それから数歩下がって、上から下まで眺めてきた。
似合わない…とか?
やめてよ、そんなの。困る。店員さんも見てるのに恥ずか死ぬよ、今度こそ。
だいたい普段着ない服を着せようとするから~馬子にも衣装状態だよ。
チラッと皆を見ると、ポカーンとしていた。
紳士的な人も少し目を開いていた。
ほらやっぱり。似合ってないじゃん!
脱いじゃおう!
僕の服下さ~い!
そう思っていたら、おじさんが口を開いた。
「結斗…カワイイ!似合うよ!!」
そう言って、おじさんが満足そうに頷いた。
「そうして並ばれていると、お似合いです」
女性店員が言うと、おじさんがいつになく笑顔で「ありがとう」と礼を述べた。
ご機嫌になったおじさんは財布の紐が緩くなってしまったらしい。
「よし、先程の服も全て貰おう」
えっ、全部?!
「結斗は何を着ても似合うからな」
「えっ、いや、そうじゃなくてっ。買って貰うの悪いよ」
「今更気にするな。俺がプレゼントしたいだけなんだから」
引き下がろうとした僕だったけど、やり取りを店員さんに見られていることに気づき、やめた。
だって、おじさんはここの常連客ということでしょ。
あんまりみっともないところ見せたら可愛そうだし。
夫をたてる、的な?
「…あ、ありがとう。大事に着るからね」
「さぁ、行こうか」
おじさんに腰に手を添えて促される。
「あれ、他の服は?僕の制服…」
「このまま着て行くからね。他の服は家まで送ってくれるから大丈夫だよ」
金持ちって、金持ちって~!
そんな事も出来るなんて…スゴいなぁ…。
そういえば…。
「近江様、本日もありがとうございました」
店員が揃って頭を下げているのに応えるおじさんの後で、僕はコソッと店内の服で値段を確認してみる。
僕の服には既に値札が無いので、分からないから。
手近な安そうな白いシャツを手にした。
ウムウムどんなもんだ?って、
よ、四万…?!
この白いどこにでも売ってそうなシャツが?!
じゃぁ、僕の着ている服は?
「色が着いてるからその分高いのかな…ま、まさか、ね」
僕は現実の恐ろしさを知りました…。
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