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第68話 はじめてのデート
「おじさん、服買ってくれてありがとう」
車が走り出して早速お礼を言うと、おじさんがにっこり笑った。
「そのくらい大した事じゃないよ」
「で、でもっ。高いのに沢山買って貰って…」
恐縮する僕に、おじさんが眉毛を下げる。
「考えてもごらん。ほぼ毎日俺の家へ来て晩ごはんとか作ってくれてるだろ?それを考えたら足りないくらいだから」
そうかなぁ?
確かに色々家事を手伝う事も多いけど、申し訳ないほどのプレゼントだ。
「気にするな。ほら、前に結斗が観たがった映画してるぞ?」
「あ」
通り掛かったショッピングモールの一角に、シネマ情報が貼り出されていた。
「せっかくのデートだし、映画でも観に行くか?」
おじさんに提案されて、僕はコクンと頷いた。
「うん。観に行きたい」
おじさんと映画なんていつぶりだろう。
第一映画自体が久しぶりだから、何だかワクワクしてきた。
平日とはいえ夕方だからそれなりに混んでいて、立体駐車場の空きに何とか停めることが出来た。
おじさんは、やっぱりドアを開けて僕を下ろしてくれる。
こんな一般人の行き交う場所でされると正直恥ずかしくて、下を向きたくなる。
買い物袋を提げた人達が訝しげに見てきたけど、高級な車とエスコートする海里おじさんを見てからは、ほうっ…と溜め息を漏らすようにウットリとした表情を見せていた。
うん。無用の心配だったみたい。
サングラスを外したおじさんは、近寄りがたさ皆無の正に女性ホイホイな感じだった。
歩く度にウットリとハートを飛ばされ、すれ違えば振り返られて…店員のお姉さん仕事、仕事!お客さんもお釣り、お釣り~!
男の人と極々僅かな女の人を除いては、ほぼ皆さん、大なり小なりフェロモンに誘われていた。
「結斗、こっちだよ」
笑顔で方向を示される。
ま、まぶしい…。
店内の照明ではなくて、いちいち笑顔が眩しくて困る。
「結斗とデート、結斗とデート♪」
いちいち言わなくちゃ気が済まないらしい。
おじさんはスキップしそうな様子で目的地へと向かう。
僕はというと、誰かに聞かれたらと思うとソワソワして堪らなかった。
「おじさん、お願いだから言うのやめて?聞かれたら恥ずかしい…」
僕が止めようとすると、通路の真ん中に立ち止まり真顔で見つめてきた。
「結斗。お前は俺との関係が恥ずかしいと思ってるのか?…そうだよな。こんないい歳をしたおじさんが相手だなんて、恥ずかしいよな」
「えっ、いや、そんな事思ってないよ?」
慌てて顔を覗き込むと、おじさんの口元がニッと持ち上がった。
「良かった~!」
安堵の溜め息を溢したと同時に抱き締められた。
僕は地面から浮いた体を預けたまま、周囲の視線から逃れるように顔をおじさんの胸に伏せた。
「愛してるよ、結斗」
そう、小さな声で囁かれた。
僕もだよ。
「でも、公共の場所では控えてよね!」
僕は体をウネウネと捩って、地面へ着地した。
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