69 / 131

第69話 イケメンは質が悪い

プリプリしながら歩き出した僕に余裕で追いついたおじさんは、ご機嫌に指差してきた。 「ほら、あそこだ」 大きなショッピングモールなだけに、方向音痴な僕は勘を頼りに歩き出したけど、やはり違っていたみたい。 おじさんに腕をグイッと掴まれ方向転換を余儀なくされた。 示された先にシネコンが見えた。 辿り着いた先は、これから映画を観ようとする観客でごった返していた。 平日でも仕事や学校帰りの夕方から観る人が結構いるみたい。 さっそく僕たちは列に並ぶことにした。 「結斗、あれを観るんだろ?」 おじさんが言うのは僕が前からテレビCMで気になっていた映画。 だけど、おじさんは観ても楽しくないかも…? 「う…ん。でも、おじさんはコレでいいの?」 「俺も結斗と同じのが観たいから」 「うそっ!僕に合わせてくれてるだけでしょ?!」 絶対にそうだ。 だって僕が観たいのは犬と飼い主が感動の再会を果たすという実話に基づいたという話。 おじさんは興味なさそうだもん。 僕は色々な生き物に興味があって大好きだけど、おじさんは特別動物好きというわけでもないし。 「俺は結斗と一緒なら何処でも何でも楽しいし嬉しい。結斗が喜ぶ顔を見れば俺の心も満たされる。だから映画もこれでいい」 キャアッ! なんて周囲から聴こえた。 は、は、恥ずかしすぎるんですけど~~~~~!! 居たたまれなくなって赤くなる顔を両手で隠してクルリと後ろを向く。 これだからイケメンは質が悪いよ~! 恥ずかしすぎて汗が出まくる。 「どうした、結斗?」 心配そうに肩を抱きながら覗き込もうとしてくる。 だからそれが心臓に悪いんだよ~気がついてよ、おじさん。 「前に進むぞ」 肩を抱かれながら前へと進んで行き、漸くカウンターへ。 その頃には僕も復活したけど、何だか疲れてしまっていた。 映画始まってもいないのに…はぁっ。 「こんにちは~!」 そう言いながら店員のお姉さんが顔を赤くして、おじさんをチラチラ見ている。 僕は、またかと思いながら希望の映画と上映時間を伝える。 「はい。お席はコチラの緑の場所からお選び頂けます」 やっぱり店員のお姉さんは、おじさんに話かけている。 グイッ 僕は思わずおじさんの腕に両手を絡めた。 おじさんは「おっ?」と嬉しそう。 店員のお姉さんは目をパチクリ。 僕の恋人だもん。 恥ずかしいけど、お姉さんにおじさんをそんな目で見られるのはイヤだ。 「ねぇ、何処がいい?」 「ん~?俺は何処でもいいよ。結斗の隣なら何処でもね」 ニコッと瞬殺スマイルに僕も殺られそうになる。けど、耐えた。 どう?お姉さん。おじさんは僕にはこんなに甘いんだから! なんて思いながら見てみると、店員のお姉さんは息づかいと目がトロンとしてヤバそうでした…あの、だ、大丈夫ですか? 「ん~この席がいいかも♪」 おじさんが勝手にモニターをタップする。 「お~い、君。店員さん?よろしく」 「…!!は、はいぃっ!」 我に返ったお姉さんは、慌ててチケットやお釣りを渡してくれ、僕たちは何とかカウンターを後にした。 おじさんは背が高いから目立つ。 こんな人混みでも頭ひとつ飛び抜けてる。 そして顔もいいんだから、天は二物どころか何物でも与えている。 カッコいい恋人は自慢であるけど、内心ちょっど羨ましい…。 僕もおじさんみたいだったら…なんてね。 恋人なのに複雑だ。本当に。

ともだちにシェアしよう!