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第70話 カップルですが、何か?

ポップコーンは映画には必要不可欠だろう、ということで再びフードカウンターへの列に並ぶ。 「何味にしようかなぁ?」 味は三種類あって、塩とバター醤油とキャラメルがある。 僕はバター醤油好きなんだけど、手が汚れるからなぁ…家なら断然選ぶんだけど。 「キャラメルにするか?」 「おじさんキャラメル味がいいの?」 「いや。塩」 はぁ? 「なら何で?」 僕が首を傾げると、またまた下らない理由だった。 「結斗がキャラメルポップコーン食べるのカワイイかと思って」 「可愛くない」 そんな理由は却下。 「残念」 「塩味にしようっと。飲み物は~僕はお茶。おじさんは?」 「俺も」 ここでも店員のお兄さんに迄フェロモンを発揮して無駄にワタワタさせた。 海里おじさんは、そんな事とは露知らずポップコーンと飲み物が載ったトレーを手にして、ご機嫌に歩き出した。 チケットの半券を受け取ってスクリーンの三番を目指す。 「結斗、足元気をつけて」 「うん」 入って直ぐの階段を上がって、エスコートされた場所は。 「ここ…?」 「そうだよ」 ニッコリ笑ったおじさんが示した場所は、他の席とは明らかに違う座り心地の良さそうなソファで…。 「…本気なの?」 周りを見ると明らかにつき合ってます!といった男女ばかり。 「ほぅら、結斗!」 トレーを置いたおじさんに腕を引っ張られて、その逞しい胸に抱き締められる。 「わわわっ…!」 慌てる僕の頭を撫でて、背中をトントン。 落ち着けるわけないよ。 「おじさ~ん。ここって」 「そう。所謂カップルシート」 語尾にハートが付きそうな勢いで、嬉しそうに目を細めている。 「初めてのデートだから、恋人になった事を意識して欲しくてな」 「お、おじさん…」 そんな顔でそんな風に言われたら、これ以上責められない。 周りの人の視線は気になる。 だって、男同士で抱き合ってカップルシートに座るなんて。 ほら、隣のカップルがヒソヒソ話しながらこっちを見てる。 反対の席になる僕の後ろ側のカップルは、どんな顔をしてるんだろ? 「結斗…。周りの人は気にしない気にしない。どうせ明日には会わない人達なんだから。第一に俺たちも男同士ってだけで愛し合ってるから皆と変わらないよ?」 愛し合ってる。 そうだよね。僕はおじさんと愛し合ってる。周りの恋人同士と変わらないよね。 僕は海里おじさんの胸に頬を擦り寄せた。 そんなおじさんの向こう側に居た若い女の人は怪訝な顔をして見ている。 「!」 視線が絡んだ。 いいもん。僕らは恋人同士だもん。 それが何か?

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