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第5話

……でも、色々考えても仕方ないか。 明日の朝になれば、また今日みたいなグループ行動になるんだから。 ベッドに腰を掛け、こてんと横になる。 ガヤガヤと、遠くに聞こえるテレビの雑音。 つま先を床から浮かせ、ベッドの中央へと移動すると、仰向けの状態で目を瞑る。歩き疲れたせいか、身体が次第に沈み込んでいくような感覚に襲われる。 「……工藤」 どれ位経ったんだろう。 不意に名前を呼ばれ、夢の世界から微睡みへと意識が浮上する。 「……ん?」 「もしかして夏生の奴、俺に|荒川萌《あの女》を宛がおうとしてないか?」 その瞬間──ドクンッ、と心臓が大きな鼓動を打つ。 微睡みから一気に現実へと引き戻され、気まずい空気が漂うのを感じた。 「……そ、」 確かに──佐倉と萌の距離は近かった。 移動中の電車内でも。パンケーキ店での行列や座席も。海辺の公園で駄弁っていた時も。 でも、わざとくっつけたり、二人きりにさせるような事はなくて。那月が、佐倉と萌に共通な話題を振りながら近付けていた場面はあったものの、それは学校の休み時間の延長みたいなもので……そんなに気にする程じゃなかったと思う。 「そんな事、ないと思うけど……」 「──ったく、いい迷惑」 吐き捨てるように、佐倉が呟く。 もしかして、我関与せずな態度を取っていたのは、そのせい……? 「……」 瞼を持ち上げ、寝返りを打ち、テレビに顔を向けている佐倉をぼんやりと見つめる。 佐倉は、どんな気持ちでこの旅行に参加したんだろう。ただ単純に、みんなで楽しく過ごしたいと思ってたのかな。 そう思ったら、佐倉の気持ちを踏みにじっているような気がして、チクンと胸が痛む。 「……なんだよ」 テレビに向けられていた筈の眼が、僕に向けられる。 拒絶するような、冷たい眼。 「ご、ごめん……」 瞬きを数回しながら、ぶつかってしまった視線を外す。 「宛がうとか……。そんな事、思ってもみなかったから……ちょっと驚いちゃって」 言いながら口角を持ち上げ、その場を取り繕う。 「……」 感じる視線。 きっと僕の事も疑っていて、見定めようとしているんだろう。 本当の事、言った方がいいのかな。 でも、険悪なムードになりたくはないし。 こういう時、何て言ったらいいんだろう…… 居心地の悪さを感じながらも、場を和ませようと微笑んでみせる。 「でも……可愛いよね、萌ちゃん。女の子らしくて──」 「───可愛くねぇよ!!」 突然の怒号。 ピシャッ、と叩きつけられたようで、肩が大きく跳ねる。 ……え…… 徐に立ち上がった佐倉が、無表情のまま僕に近付く。 「可愛いのは、……アンタの方だ」

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