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第8話
「……っ、」
どうして……
何でこんな、酷いこと……
……僕、何かした……?
佐倉を怒らせるような事でも言った……?
咥内を弄られる感触が気持ち悪く、拒絶したいほど嫌なのに。
その理由が全く解らなくて。真意の見えない不安や恐怖が、胸の内に広がっていく。
「……工藤」
淫らな水音を立てながら、離れていく粘膜。
乱れる吐息と共に、佐倉が僕の名を囁く。
瞬きをする度に涙が滲み、視界を歪ませる。
楽しい筈の今日が、この一瞬で全てを壊してしまった。
「その顔も、可愛いよ……」
何も答えずにいれば、あれ程許さなかった僕の顔を僅かに傾げ、剥き出された首元に顔を埋める。
「……」
ぴちゅ、じゅる……
首筋を熱い舌が這い回した後、軽く食み、強く吸われる。
チリッとした痛み。それだけが、もやの掛かった脳内を一瞬だけ現実に引き戻す。
「可愛い……可愛いよ、工藤……
ずっと、好きだったんだ。……俺のものになってよ……」
顎下に差し込まれていた大きな手が滑り下り、服の上から僕の胸元を厭らしく撫で回す。
そうしながら下肢を押し付けられ、その意思を主張する。
「……もうこれ以上、我慢できない……だから、いいだろ? なぁ、工藤……」
耳に掛かる熱い吐息。
撫で回していた手が服の裾をたくし上げ、露出した腰骨辺りに触れる。
「……」
いい訳なんか……ない。
もし僕に落ち度がなくて、本当にそんな理由だとしたら……そんなの、許せる筈がない。
思い通りにされる虚しさよりも、汚されてしまった悲しみが、胸の内側に広がっていく。
密室の部屋。
二人だけの空間。
体格差も力の差もあり過ぎて、逃げる事もできない。
それでも……嫌がっているのに。
一方的に思いをぶつけて、それを良しとしようとするなんて……
ぴちゅ、ちゅく……
耳が、熱い粘膜に覆われる。
腰骨辺りの肌に触れていた手が、急いたように滑り上がり、胸にある小さな領域を探す。
……竜一……
助けて、竜一……
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