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第9話

「──!!」 ハッと気付くと、目に飛び込んできたのは──真っ白の天井。 怖ず怖ずと耳に触れれば、びちゃびちゃだった筈のそこが、何事もなかったかのように乾いていて。 着衣の乱れもない。ベッドに横たわった体勢も……佐倉に話し掛けられる前と、同じ…… 「……やっと起きたか」 声がして、視線を其方に向ける。 ベッド端に座って両手を後ろに付き、顔をテレビ画面へと向けながら黒眼だけをチラリと此方に寄越す佐倉が、再び口を開く。 「随分とうなされてたけど、大丈夫か?」 「……え」 ───ぜんぶ、夢……? 頭の中が真っ白になり、夢と現実の境界線が……よく解らなくなる。 さっきまで聞こえていた筈のテレビの雑音が、全然耳に入ってこない。 掴まれた手首の感触も、身体にのしかかってきた重みも、唇の感触も、咥内を弄られる熱も…… その何もかもが、身体の細胞ひとつひとつに刻まれていて、リアルに思い出される。 「……」 ……でも、そっか。 そう……だよね。 夢は、記憶の整理……なんて言うし。 今まで竜一にされてきた数々の記憶の断片が、それぞれ別の引き出しに整理されていて。記憶を引き出す時に、それが変に結びついちゃって……竜一から佐倉にすり替わって……リアルな夢を見ただけ。 どう考えても、佐倉が僕に、だなんて……あり得ない。 そう納得させながら、僅かに感触の残る手首を擦る。 「……ああ、そうだ。さっき夏生から連絡来て、みんなで夕飯食べに行こうってさ」 携帯を手にした佐倉が、起用に操作しながら淡々と用件を伝える。 「そのうち、また連絡来るだろうから。工藤も準備しとけよ」 さほど僕に興味はないんだろう。 それにホッとしながら上体を起こすものの、妙にリアルな夢のせいで……まだ落ち着きを取り戻せそうにない。 「……うん」

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