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第10話
洗面所で顔を洗い、タオルで拭き取った後ふと鏡を見る。
「……」
まだ、不安の残る顔。
口角を持ち上げ、無理矢理にでも笑顔を作ってみせる。
ガチャ、と玄関ドアが開く音がし、その奥から、賑やかで楽しげな男女の声が聞こえた。
「……おぃ、さくら」
近付く足音と共に鼓膜を震わせたのは、僕を探す竜一の声。
その刹那──酷くホッとしながらも嬉しさで胸がいっぱいになり、自然と笑顔が溢れる。その笑顔を鏡に映した後、慌てて洗面所を後にする。
──だけど、僕は気付かなかった。
細くて長い首筋に、小さな赤い鬱血痕が付いていた事に………
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