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第11話 赤い痕

××× ディナーに向かった先は、ホテルの上層階にあるレストランバー。 木製の厚くて重いドアを開けると、ムーディなスポットライトやBGM、壁一面にお酒のボトルがズラリと並ぶお洒落なカウンターが目につく。スーツ姿の男性とロングヘアに黒いワンピースを身に纏った女性が並んで座り、バーテンダーと何やら愉しげに会話を弾ませながらお酒を嗜んでいる。 それは、見るからに大人の世界──気後れする僕に対し、既に大人の風格を漂わせる竜一が、堂々と店に入る。 「……わぁ、綺麗!」 バーカウンターから離れたフロアには幾つかテーブル席があり、開放的なガラス壁の向こうにある煌びやかな夜景が一望できる。それだけでテンションが上がる僕を、隣に立つ竜一が静かに見下ろす。 「分かれて座るぞ」 「……だね」 竜一の提案に、後方に居る萌と佐倉を見た那月が頷く。 「ねぇ、佐倉くん。悪いんだけどさ、そろそろデートらしい事したいんだよね。 だから……私となっち、二人っきりでご飯食べてもいい?」 夏生の腕に絡みつき、傾げた頭を夏生の肩にもたれた那月が佐倉を見据える。 「……」 「あ、私は……全然いいよ」 何も答えない佐倉の代わりに、萌がはにかみながら返事をする。 「じゃあ、別々って事でいいかな?」 「ああ、構わねぇぜ」 そう言い放つと、竜一が僕の肩に腕を回し、案内役の店員の後をついていく。 通されたのは、夜景の見える窓際の席。 ドラマでも最近観ないようなシチュエーションに緊張し、中々落ち着かない。 視線を店内へと向ければ、窓際ではない事に不服そうな那月の姿が見えた。 「なに、食いたいんだ?」 開いた状態で渡された、文字だけの薄いメニュー表。 前菜、スープ、メインディッシュ。 きっと、意味の解らない小洒落た料理名が並んでいるんだろうと構えていたものの、ファミレスにもありそうなネーミングの数々に親近感が湧く。 「竜一は?」 「ビフテキだな」 「……ふふ」 「何だよ」 何となく、そうじゃないかと思っていたから、つい笑みが溢れてしまう。 「じゃ、僕も同じのにしようかな」

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