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第14話
階下へと移動するエレベーター。
「……」
ドキドキする。
これからイケナイ事をするみたいで。
後から後から湧き上がってくる期待と緊張。震える身体。それらを落ち着かせるように大きく息を吸い込み、竜一の背中を追いかけるようにしてエレベーターから下りる。
相向かいの部屋。
中の構造は勿論、家具もインテリアも全て同じ。ただひとつ違うのは、ベッドサイドに置かれた私物だけ。
「竜一は、こっち?」
入って直ぐのベッドに駆け寄り、竜一に笑顔を見せる。
「……ああ」
素っ気ない声。ふぃっ、と逸らされる視線。
照れているんだろうか。それとも、期待してたのは……僕だけ?
高揚感が薄れ、恥ずかしさが募っていく。
……でも、かえって良かったかもしれない。竜一とはゆっくりと関係を深めていきたいし、何より……大切にしたいから。
そう思いながらベッド端に座り、冷蔵庫からペットボトルを取り出す竜一の姿をぼんやりと眺める。
「夏生も、那月ちゃんと一緒にいるのかな」
食事中、視界に映った二人は、楽しそうに見えた。
佐倉と萌の二人を引き合わせる目的もあったんだろうけど……デートらしい事をしたいと言った那月の言葉は、きっと嘘じゃない。
「……さぁな」
さほど興味の無さそうな声で答える竜一。ミネラルウォーターを持ったままベッドに近付くと、サイドテーブルにトンと置く。
「別にいいだろ、アイツらの事は」
「……」
不貞腐れたように、僕の隣に腰を下ろす。その横顔をじっと見つめていれば、それに気付いた竜一が黒眼だけを動かして僕に向ける。
素っ気ない言葉とは裏腹に、愛おしさを含んだ真剣な眼──そこから、僅かに残る嫉妬と余裕の無さを見つけ、堪らず胸が熱くなる。
「……ん、」
どうしよう……
また緊張してきちゃった。
トクトクと、音のない空間に鳴り響く僕の心音。視線を向けられる程に速くなり、指先までもが心臓の一部になったかのように、大きく脈動する。
瞬きをしながら目を伏せれば、緊張で震える僕の手の甲に、武骨で大きな手のひらが重ねられる。
「……ちいせぇ手、だな」
包み込むようにしてそっと僕の手を持ち上げると、その指先に竜一の唇が舞い降りる。
……あ……
甘く塗り替えられていく空気。
魔法が掛かったみたいに指先から緊張が解けていく。
だけど、触れられた所は火傷しそうな程に熱くて。心臓が早鐘を打つ度に、解かれた筈の緊張をまた連れてきてしまう。
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