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第21話
引っ込められる拳。
小さな溜息が聞こえた後、僕の横をすり抜け竜一が離れていく。
「……」
胸に飛び込んだのは、僕なのに。
竜一は……それに答えてくれただけなのに。
拒絶してしまった時の竜一の心情を思うと──胸が張りさせそうな程、痛い。
「……行か……ないで……」
喉奥から声を絞り出し、振り返る。
未だ震えてしまう指先──思い切って両手伸ばし、竜一を背後から抱き締める。
「傍に、いて……」
はぁ、はぁ……
布地をキュッと掴んで吐露すれば、竜一の歩が止まる。
「……怖いのは、竜一じゃない……から……」
滑稽な程に震える声。全然説得力なんてないと、もう一人の自分に言われてるみたい。
それでも──ちゃんと伝えたくて。竜一の背中に額を擦りつけながら訴える。
力の入らない手。だけど、離すまいかと握り締めるその甲を、竜一の片手が掴む。
「怖がらせたのは……俺だ」
布地から解かれ、掴まれたままゆっくりと竜一が振り返る。
僕を見下ろす双眸。それを見つめながら、頭を小さく横に振る。
「……竜一は、悪くない」
「……」
「原因を作ったのは……僕、だから」
言いながら濡れた睫毛を伏せ、竜一の手を両手で包む。
ゴツゴツとして、男らしい大きな手。乾いた血の付いたその拳を、愛おしく想いながら親指の腹でなぞった後、頬に寄せる。
「お前……」
その行動に驚いたんだろう。引っ込められそうになる腕を、必死で繋ぎ止める。
「……俺が……怖く、ねぇのか……?」
「、ん……」
答えながら、拳の出っ張った骨にそっと唇を当てる。
それはまるで、風が産毛を撫でるような軽いものだったけど。それまでの空気を変えるには充分で。
竜一から感じる手の温もりが、僕の両手や唇から伝わって、心の奥底にある不安を掻き消すように、温かな光が宿る。
「竜一が、傍にいてくれなきゃ……やだ」
感情が溢れ、涙の雫となって頬を伝う。
自分が何に怯えているのか……解らない。
だけど、離れたくない。
傍にいて欲しい。
それだけは……解るから。
「まだ、震えてんじゃねぇか……」
もう片方の手が、僕の頬を包む。
それに導かれるように、伏せた睫毛を上げ竜一を見る。
「……それなら……竜一が止めて」
縋るようにそう言えば、何か言いたげな唇が僅かに動く。だけど、僕を見下ろす竜一の瞳からは、僅かに残っていた憂いが抜け落ちたように見えた。
「……!」
頬に当てられた手が後頭部へ回り、引き寄せられながら竜一の顔が近付く。
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