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第23話

『汚い』『汚らわしい』──ふと脳裏を過る、萌の言葉。 怖いと感じていたのは……竜一の暴力なんかじゃない。 竜一との関係が、簡単に壊されてしまうのが怖かったんだ…… 胸に刺さった柔らかな凶器の存在に気付き、腑に落ちる。 萌の口から発せられた本心は、きっと誰の心の奥にもある。 人間としての……生物としての本能が、正常ではない感情を持つ者を認めたりしない。例え理性で理解したとしても、多様性だからと区別を付ける時点で、差別と変わらない。 ただ、人を好きになっただけなのに。 竜一が……好きなだけなのに。 非難されて、区別されて……奇異な目で見られて。 もし世間から、爪弾きにされたら── 「……怖いか?」 名残惜しそうに離れた唇が、静かに涙を溢す僕に間近で囁く。 濡れた睫毛を持ち上げれば、鼻先三寸の距離で僕を見つめる竜一と目が合う。 「……」 ──竜一は、僕から離れたり……しない? そう心の中で問いながら、まっすぐ竜一の瞳を見つめる。 その水鏡に映るのは──僕しかいなくて。 至極当たり前の事なのに。酷くホッとする…… 「離れちゃ、やだ……」 静かにそう答え、空いている方の手を伸ばして竜一の首に腕を絡める。 世界がどんなに僕を排除しようとも、竜一を好きな気持ちは変わらない。 例えこの先、引き裂かれる運命にあったとしても──この瞬間は、誰のものでもない。 誰にも邪魔させない。 僕と竜一、二人だけのものだから。

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