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第24話 優しい棘

××× ベッドからそっと足を下ろし、音を立てないよう静かに立ち上がる。 突き抜けるような腰の痛み。内腿もぶるぶると震えてしまって、上手く歩けそうにない。 腰に手を当てよろよろしながら洗面所へ向かうと、大きな鏡に目をやる。 「……」 左右の首筋に残る、赤い鬱血痕。 竜一に付けられた方を指先で触れ、そっとなぞる。 その刹那──蘇る、吸われた時の甘い痛み。次いで|腸内《ナカ》を穿つ強い圧、放たれた後の温かさが、下肢の方からじんわり広がっていく。 初めて、最後までしちゃったんだ…… ……どうしよう…… 昨日より、恥ずかしい…… 鏡の中の自分にまで見られているようで。首元の痕を手のひらで隠し、そっと睫毛を伏せる。 シャワーを浴びて部屋へ戻ると、薄カーテンから射し込む柔らかな朝日を浴びる竜一が、裸のままベッドに座っていた。 「……」 一体、何を考えているんだろう。 窓の外を眺め、物思いに耽っている姿に見蕩れていると、僕に気付いた竜一が此方に顔を向ける。 切れ長で二重のアーモンドアイ。その綺麗な眼が真っ直ぐ僕だけに向けられ、頬が熱くなっていく。 「……お、はよ……」 ぎこちない挨拶をしながら目を伏せ、ガウン姿のまま竜一の近くにちょこんと座る。と、布擦れの音と共に伸びる太い片腕。背後から僕を捕らえ、軽々ベッドの中へと引き摺り込む。……まだ髪が濡れていようと、お構いなしに。 「可愛いな、朝から」 「……」 両腕で抱かれ、項に甘い吐息が掛かる。 まだ余韻が残っているのだろうか。いつもと違う甘々な雰囲気に、身も心も熱くなっていく。 トクン、トクン、トクン…… 背後から感じる温もり。力強い心音。柔らかで眩しい朝日に包まれて……心地良い。 「一生大事にする」 「……」 「だから、一人で勝手に抱え込むんじゃねぇ」 力強い言葉、確かな想いに……心が埋まっていく。 一ミリの隙間もない程に。 「……ん」 着替えの服を鞄から引っ張り出して袖を通すと、思いの外襟口が広い事に気付く。 どうやっても鬱血痕が上手く隠れなくて。肩を竦めながら少し長い横髪を手櫛で伸ばす。 「……なに、してんだ」 僕の気も知らないで、平然と言いのける竜一に口を尖らせて睨む。 「せめて、もう少し下に付けて欲しかった……」 剥れながら答えれば、表情ひとつ変えず僕の首筋をマジマジと見る。 「キスマークの事か?」 「……ん」 「気にするな」 ……えぇ! もう、他人ごとだと思って…… バッサリと言い切ってしまう竜一を恨めしく思いながらも、その堂々とした姿勢に眩しさも感じていて。 「……」 ……大丈夫。 この人となら、乗り越えられそうな気がする。 この先、どんな未来が待っていたとしても……

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