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水槽の外の人
高校時代、充には友達が沢山いた。気の合う奴らといつも一緒で毎日が楽しかった。
でもある時気付いてしまう。
自分がいない時に陰口を言われていることを……
休みの日に友達と二人で遊びに行ったあれも、罰ゲームだと後から知った。
俺がゲイだから──
別にカミングアウトしたわけじゃない。 充の雰囲気で勝手に決めつけ、仲良くしてるふりをしながら影ではコソコソと悪口を言って楽しんでいたのだ。ムカついたけど、でもすぐに卒業だし俺の前では仲良しを装ってくれてるわけだから別にいいや、と充は気付いてないふりをした。
そして卒業。
幸い進学する大学にはその仲間は誰もいない。知ってる人物は一人もいない中、充は改めて再スタートを切る事が出来た。
この事があったから、気心知れた友人にも絶対にカミングアウトするつもりはなく、ゲイだという事は隠して過ごした。それでもいつしか好きな人ができてしまい、それからは自分の気持ちがバレないよう仲間を避け、極力一人で過ごしていた。
仲良くなっていつも仲間と一緒にいれば、もしかしたら気付かれるのではないかと思ったから。また揶揄いの対象になるのが怖かったから。
せっかく芽生えた恋心を殺して大学生活を送るのは辛かったけど、それでも好きな人とたまに顔を合わせ、少しでも会話ができると幸せな気持ちになり頑張れた。
卒業間近、充は友達の一人に告白をされた。
告白をしてきたのは男だった……
緊張に震えながら「好きだった」と言ってくれた。 その気持ちは痛いほどわかる。 男に告白するのがどれだけ勇気がいる事か、どれだけ怖い事か手に取るようにわかり、その気持ちを思ったら充は嬉しさと申し訳なさで涙が止まらなかった。
自分に告白してくれたこと……
凄く嬉しかったけど、俺には好きな奴がいるからその気持ちにはこたえられないとちゃんと伝える事が出来た。
そして自分もゲイだと告白出来た。
初めて出来た親友、伸之 。友達のままでもいいから側にいたいと言う彼の言葉に甘えて、充は初めて「親友」と呼べる友人を手に入れた。
就職をして、仲間もできて、充実した毎日。
休みの日は一人の時間を有意義に使ったり、時には伸之と遊びに出かけたり、仕事の疲れもちゃんと休暇でリフレッシュ出来ていた。
毎日が楽しかった。
でもある時伸之が言った。
隣町にある一昨年出来たばかりの水族館に、充がかつて好きだった人物が働いていると……。
もちろん告白を断った時に好きな人がいるとは伝えたけれど誰とは言っていない。伸之は何も知らずに、単に友達の友達というよくある繋がりで、なんとなしに言っただけだろう。
次の休みに一緒に水族館に行こうと誘われてしまった。
会いたい……
会いたくない……
姿を見たらまたあの時の思いが蘇ってしまいそうで怖かった。 せっかく諦めて誰のことも好きにならずに穏やかに過ごしていたのに…
片思いは辛いから。
でもやっぱり会いたい。 本当に再会する事が出来たなら、そしてまたあの時の想いが蘇ってくる事があるのなら……
きっと今の自分なら想いを伝える事ができると思った。
今更だけど……
あいつは俺のことなんか覚えていないかも知れないけれど。
それでもいい。
二年前のあの頃の気持ちが蘇ってくるのなら、今度こそ勇気を出したい。
もう充は逃げたくなかった。
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