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再会

緊張で指が震えた。 心の隅で「出なくてもいい」とも思った。 それでも彼は電話に出てくれた── 「……もしもし?」と疑いのこもった充の声。二年前あの頃となにも変わらなく、懐かしさと愛おしさが一気に込み上げてきた。 「俺……覚えてるかな?」 学生時代、何度か遊んだことはある。充はあまり友人とつるんでいなかったけど、誘えばちゃんとみんなの輪に入ってくるような奴だった。 弘樹はずっと恋心を隠してきた。せっかく友達関係を築いてきたのにそんな事で関係を崩してしまう事が怖かったから。崩すどころか、男同士なのに気持ち悪いと拒否されたら目も当てられない……。 なのに今日見た充の姿は弘樹の知っている充じゃなく、動揺した。 ただの友達なのか、特別な関係なのか、見ただけじゃわからないけどそれでも弘樹から見たら親密な関係にしか見えなかった。明るく笑う充の顔。肩を寄せ合い、仲睦まじく話している姿に激しく嫉妬した。 恋人がいるのかもしれない。 俺じゃダメかもしれない。 それでもいい……。 気持ちをどうしても伝えたかった。 あの時言えなかった「好き」の気持ちを打ち明けたかった。 「覚えてるよ……元気だった?」 電話の向こうから、ゆっくりとした口調で覚えていると言ってくれた。それだけで嬉しくて舞い上がりそうになる。 今日、勤務先の水族館でお前の姿を見かけたと伝えると、弘樹の存在を知って水族館に遊びに行ったんだと教えてくれた。 驚いた…… 弘樹が働いてるからと、会えるといいなと、そう思って来てくれていた事を知って、やっぱり会って話がしたいと強く思った。 弘樹は引かれるのを覚悟で今度二人で呑みにでも行こうとしつこく誘った。 あまり乗り気じゃない返事── でも弘樹の勢いに諦めたのか、仕事の都合を確認してからまた連絡するとそう言って電話が切れた。 次の日、ちゃんと連絡が来た。 心のどこかで、もう連絡をくれないんじゃないか、社交辞令の言葉だったんじゃないかと疑っていた。でもちゃんと電話をくれて、今日の仕事後に会おうと言ってくれた。 「俺の行きつけの店、予約しておいたから……」 充は店の予約までしてくれていて、嫌々ではないんだとわかり嬉しくなる。言われた場所を確認すると、弘樹の勤務先の水族館から二駅の場所。充の勤務先もその辺なのだろうか? もしかしたら少し遅れるかもと、心なしか元気のない声で言われ、弘樹は先に呑んでるからそんなの気にするな……と言って笑った。 そう、むしろ少し遅れて来てもらった方が都合がいい。酒の力を借りないと怖気付くかもしれないから。 聞きたいことが沢山ある。 言いたいことも沢山……。 「じゃあ、また夜に……」 「うん、楽しみにしてる。ありがとう……」 そして期待と緊張でドキドキしながら仕事を終えた弘樹は約束の店に向かった。 少し高級な、小料理屋のような店。中に入ると案の定充はまだ来ていなかった。店員に予約の名前を告げると奥の個室へと通される。店内はモダンでお洒落な雰囲気。充がこういう店をチョイスするのがちょっと意外に思った。 「すぐに連れが来ると思いますので……」 弘樹は充が来るまで呑むのはやめてちゃんと待つことにした。そして五分と経たないうちに個室の扉がゆっくりと開いた。 「あ……久しぶり」 二年振りに再会した想い人は、緊張した面持ちで弘樹を見つめて微笑んだ。

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