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ファーストキス
「今更図々しいのはわかってる。でも……でも、お前が嫌じゃなかったら、お……俺と……俺と付き合ってください!」
呆気ない幕引き。溜息すら出ない。
「うん、わかった……ん? ……ん? えっ? なに? お別れじゃなくて? え? 今なんて言った?」
もう頻繁に会うことはできない。彼氏ができました。とか、縁を切ってください。とか、絶対にそういうことを言われるかと思っていたのに、伸之の耳に飛び込んできた言葉は想像していたものと全く違っていて混乱した。
「何度も言わせないでよ。お前が嫌じゃなかったら付き合ってくださいって言ってるの! あの……俺と恋人同士になってほしいなって……ちょっと! 聞いてる⁈ ねえ……え? やだ、泣くなよ、大丈夫?」
充が俺の事を選んでくれた!
俺と恋人同士になりたいと言ってくれた!
驚きすぎて黙り込んだ信之の瞳から溢れ出す涙に、今度は充が焦ってしまった。
「嘘……みたいだ!」
涙がとめどなく溢れてくる。恥ずかしいけど伸之にはそれを止めることが出来ず、充と二人で泣きながら笑った。
「……俺でいいの?」
「さっきからそう言ってる……」
伸之がしつこく言うから充の返事がイラッとしている。
「逆にお前はいいのかよ俺なんかで。親友とかいって……調子のいいこと言って……今更付き合ってくれなんて、図々しいだろ」
「いいに決まってる。……だって俺、ずっと今の今までお前のこと好きだったから。告白してフラれたあの日からずっと、ずっと好きだったから」
伸之は言ってしまってから後悔した。フラれたくせにずっと好きだったなんてきっと気持ちが悪いだろう。そんな風に思っていたら、充の目からまた涙が落ちた。
「ごめん……本当にありがとう。俺……今更でほんとごめん。伸之好きだよ。だからもう泣かないで」
涙が止まらない伸之を充は優しく抱きしめる。
恥ずかしかったけど、でもよかった。ずっと諦めないで好きでい続けて、本当によかった。
抱きしめられたままで、ふと顔を上げると目の前に充の顔。思いの外近くてドキッとする。
あ……
スローモーションのように充の顔がそのまま近づいてくるのがわかり、ぎゅっと目を瞑った。
ふわっと柔らかな感触が唇に触れる。
きっと一瞬のことなんだろうけど、伸之にとってこの初めてのキスは優しくて甘くて、凄く長い時間に思えた。
「へへ……キスしちゃった」
伸之は急に恥ずかしさと緊張がこみ上げてきて思わず出た言葉に「アホみたいだ」と我ながら情けなくなる。途端に涙なんか引っ込んでしまった。
ファーストキス……
幸せで何かが爆発しそう! もうわけわかんない! 伸之は人生で一番と言っていいくらい幸せに感じた。
ぎこちなく、どちらともなくもう一度軽く唇を重ねる。
そして見つめ合い、照れ隠しに2人で笑いあった。
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