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ケジメ

数時間前── 充は待ち合わせの店に急いで向かった。 前もって「遅れるかも」とは伝えてあるけど、それでも待たせるのは申し訳なく、小走りでいつもの店へ向かっていた。 自分のことを覚えていてくれて、久しぶりに見かけたからと電話までくれた。少しだけ他愛ない話をして、そして呑みに行こうと誘われた。 好意を寄せてはいたものの特別仲良くもなかったはずなのに、ただ久しぶりに見かけたからという理由で電話までしてくるなんて、やっぱり弘樹は社交的でいい奴なんだな……と感心する。 呑みに誘われて嬉しかった。 こみ上げてくるものがあった。 ドキドキした…… あの時の思いがふつふつと湧き上がってくるのがわかる。それと同時に、罪悪感も湧いてきた。 ついさっきまで親友と思っていた相手とデートをして……好きだと実感したばかりなのに。 大切なものに気がつけたはずなのに。 浮かれている自分が凄く嫌だった。 ちょっと冷静に考えて、会うべきではないのかもとも考えた。でも、どうしてもと言う弘樹の熱意と自分の気持ちに負け、考えさせてくれと伝え一度は電話を切った。でも考えれば考えるほど弘樹への想いが蘇り、気持ちを伝えなかったことがここに来て大きな後悔としてのしかかってくる。 同時に自分のことをきっと今でも思ってくれてる伸之の事も頭に浮かんだ。 どうしよう…… ズルイのはわかっているど、ケジメをつけたい。最初から水族館に誘われた時に話しておけばよかったんだ。変に隠したりなんかしたからこんなことになってしまった。 ちゃんと説明をして、会ってきてもいいか聞いてみようと電話をとる。好きな奴に、こんなこと聞かされたらどう思うだろうか?酷いことをしているとわかっていたけど、それでも自分がすっきりさせたいがために充は伸之に電話をしてしまった。 『よかったな。……行ってきなよ』 そう言われ、ハッとした。心の何処かで「行くな」と言われるのを期待していたのかもしれない。迷ってる自分の手を引っ張ってもらいたかったのかもしれない。 でも、背中を押されてしまった。 頑張れと言われている気がした。 そっか…… 自分が伸之の事を親友だと思っていたのと同じに、伸之もまた自分ことを親友だと思い接してきたのかもしれない。 まだ俺の事が好きだなんて…… 思い上がりも甚だしい、ずっと自惚れていたと思うと恥ずかしかった。 充は複雑な思いで待ち合わせの店まで走る。ずっと言えなかった言葉はちゃんと伝えよう。そう決意を固める。 俺の青春── 好きだったなんて、男の俺からそんな事を言われたらどう思うだろうか。 でもどう思われてもいい。 ケジメつけて… そして伸之のところへ帰ろう。 店で待つかつての思い人は、あの時と変わらずキラキラとした笑顔で俺を迎えた。

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