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動揺
好きだった……って、いつの話?
取り敢えずなかなか離してもらえない手を振りほどこうと揺さぶって見たけど、しっかりと握られて離してくれない。
「……気持ち悪い? ごめん。でもさ……お前ならわかるよね? 俺の気持ち」
ジッと見つめてくる弘樹の瞳が心の奥を見透かされてるようで落ち着かなかった。
「一緒にいたのは友達?」
手を握ったままそう聞かれ、すぐに伸之のことを言っているのだとわかった。学生時代何度か交流してたはずだけど、弘樹は覚えてないのだろうか。
「うん……友達」
友達、親友だと思っていた。けど、今頃になって「好き」なんだと気がついた。
「彼氏じゃねえの?」
そう言った弘樹の顔が少しニヤつく。
「彼氏じゃない。……友達、親友」
やっぱり弘樹はわかってるんだ。だから「お前ならわかるよね? 俺の気持ち」なんて言ったんだと充は酷く動揺した。今まで頑なに閉じ込めてきた思い、晒しちゃいけないと思っていた気持ちを暴かれてしまったようでどうしたらいいのかわからなかった。
ふと握られていた手がスッと離れた。
「ビックリさせてごめんな。まだ時間大丈夫だろ? もう一軒付き合えよ。飲み直そ」
優しい笑顔に少し気持ちが落ち着いてくる。
断る理由もない。
二軒目は任せてと言われた充は、黙って弘樹について行った。
歩きながら、結局自分も学生の頃弘樹のことが好きだったんだと告白をした。言おうかどうか迷ったけど、フェアじゃないような気がして言ってしまった。弘樹も「好きだった」と過去形で話していたから、きっと今どうこうしようという意味ではなく、懐かしさで打ち明けてくれたのだと思ったから。
軽い気持ちで充も当時の気持ちを打ち明けた。
「なんだよ、なら何でもっと仲良くしなかったんだ?」
「そんなの決まってるだろ? 気持ちを悟られたくなかったから近づかないようにしてたんだよ……」
「ふぅん、そうなんだ。……消極的なんだな。じゃ、俺が当時告白してたら上手くいってたのかも」
冗談ぽく笑い合い、賑やかな繁華街を並んで歩く。
先程までいた店からあまり遠くない、少し古そうな雑居ビルの地下。行きつけのバーだから……と、弘樹は充の手を引き階段を降りる。なにも手を繋がなくても……と思ったものの、少しお酒が入っていたせいもあり、まぁいいやと充はそのまま導かれるまま店の扉を抜けた。
「え……?」
薄暗い店内。テーブルの間隔は広めに取られソファの背もたれは高く、周りからは客の様子が見えづらい。でも独特の雰囲気……匂いで普通じゃないとすぐにわかった。
「こっち……」
手を繋がれたまま、店の奥の方へと引っ張られる。奥の席へ進む途中、目に飛び込んできたのはソファに寝そべるようにして抱き合いキスをしている男女の客。向こうのテーブルでは女一人に男が二人、半裸で交わっていた。
「ちょっと……待って、ここって…… 」
「あれ? こういう所は初めて? まあ別に気にすんなよ。普通に酒も飲めるしさ……」
さっきまでと同じ笑顔で見つめる弘樹の事が怖くなり、充はすぐにこの場から逃れたかった。
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