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同じ思い

部屋に入るとすぐに鼻を擽るいい匂いに伸之は心が踊った。何度か充に夕飯を作ってもらった事があるけど、それがどんな料理であれ自分のために一生懸命作ってくれた、という事が大事な事であって、毎回この瞬間は幸せな気持ちで満たされる。それに充の作る料理は簡単なものが多かったけれど、どれも絶品で美味しかった。 「充……はいこれ」 いきなり手渡した小さな花束に、あからさまに困惑した表情を見せた充に、思った通りの反応だな、と可笑しくなった。 ここに来る途中の花屋でなんとなく買ったもの、というのは建前で、ただ単にチョコを渡すだけなのも味気ないかな……と思い、花屋に寄ってわざわざ買ったものだった。充も夕飯を用意してくれてると言っていたし、お礼の意も込めて充の顔を思い浮かべながら選んだ花。花なんて買ったこともなかったから我ながらちょっと恥ずかしく、渡す手に汗をかいてしまった。 目に入ったテーブルセット。 いつもは何もしていないのに、今日に限って可愛らしいテーブルクロスが掛かっていた。 あれ? もしかして…… もしかして充も今日がバレンタインデーだから特別なことをしてくれようとして準備してくれたのかな? と頭を過る。でも今まで一度だってバレンタインのバの字も言ったことのないような充だから、どうしても確信が持てなかった。自分の誕生日でもないし、勿論充の誕生日でもない。それでもやっぱりいつもと違うのは明らかだった。 こういう時、さらっと聞ければいいのに変に意識してしまい上手く言葉が出てこない。充も同じ思いだったら嬉しいな、と思いつつコートを脱いだ。 バレンタインのチョコはどのタイミングで渡そうか…… 伸之は花を渡したものの、ポケットに忍ばせているチョコレートを出しそびれていた。 充は伸之からコートを受け取るとハンガーに掛けてくれる。チラッとその姿を盗み見たら、耳を真っ赤にしているのがわかって愛おしさが抑えきれなくなってしまった。 「どうする? 腹減ってる? すぐ飯にする?」 「すぐ食べたい…… 」 思わず後ろから充に抱きつく。「すぐ食べたい」と言ったものの本心はこのまま今すぐキスして押し倒してしまいたかった。 いつもの充は付き合う前となんら態度も変わらず、恋人らしい接し方も避けているようにも見えた。一晩共に過ごしてもそういった雰囲気になるでもなく、ひとり早々に眠ってしまうなんてこともしょっ中だ。でもやっぱり目の前の充は伸之のことを意識しているように見え、バレンタインだからと張り切ってくれたんだと確信した伸之は嬉しく思った。 優しく手を摩る充に、手を洗ってこいと言われてそそくさと洗面所へ向かう。充の頬が赤く染まっていているのが見えて伸之はどきどきしながらリビングへ戻った。

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