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軽蔑する?

好きだと告白をして、恋人同士になれた。伸之から恋人らしい行為を求められなかったというのもあるけど、充はそういった雰囲気になるのを避けていたところがあった。 性欲がないなんてそんなわけはない…… ずっと待たせてしまって、おまけに充は伸之に後押しされて初恋に決着をつけに行った。自分なりにケジメをつけたかったと言えばそれはもしかしたら後付けの言い訳なのかもしれない。初恋の相手、弘樹と会いたくて、誘われるがまま自分から会いに行ったんだと今は後悔していた。あの時、伸之の気持ちを知っていたから、わざわざそれを伝えて傷つけるような事までしてしまった。 伸之に後押しされたなんて都合の良い言い訳。 結果、自分の気持ちに気付けたと同時に、弘樹に言い寄られる羽目になった。キスまでされてしまった……自分のフラフラした態度に弘樹まで傷付けてしまったかもしれない。キスをされ、体を弄られ、恐怖心が湧いてしまった。そんな事があったから、伸之に対する罪悪感で自分からは何もできずにいた。 「もしかしてさ、充は俺とそういうことするの、まだ抵抗あるのかな? そりゃ怖いよな…… でも俺待つからさ。今更いくらでも待てるし気にすんな」 シャワーを済ませた伸之がそう言って優しく抱きしめてくれる。 今更いくらでも待てるって、どんな皮肉かよ……と、充は心の中で呟きながら、でもちょっとだけ気持ちが楽になった。 「違うんだ…… 怖いとか抵抗あるとかじゃない。いや……そういうのは初めてなんだけど、伸之となら、怖くないし嫌じゃない。俺……伸之に言ってないことがあって……」 自分から言うのはやっぱり怖いと思った。優しい伸之でももしかしたら怒るかもしれない。だから「どうした?」と覗き込んでくる伸之の顔を見ることができず、充は少しだけ俯いて話し始めた。 「あの日さ……俺が好きだった奴に会いに行った日、俺、そいつに告白されたんだ……当時俺のことが好きだったって」 「へえ……なら両思いだったんだな」 伸之は静かにそう言って笑う。 「だから、俺もそうだった……って言ったんだ。そしたら、なら付き合おうって、俺にしろって迫られた」 「………… 」 「俺はもう過去のことだし、今は大切な人が出来たから無理だって、そう言ったんだけど…… 強引に……キス、されて……体、触られて…… 嫌だったんだけど、強く抵抗できなくて……自分から弘樹について行ってこんなことになっちゃって……途中で逃げてきたけど、結局お前にはこの事言えなくって…… ごめん」 付き合う前とは言え、裏切り行為だと感じていた。 ロマンチストと言われようが、初めてのキスだって伸之としたかった。 「ごめん……」 思い出したら辛くなってきてしまった。せっかくのバレンタインに何を話してしまったんだと充は後悔した。嫌われてしまっただろうか? 「俺のこと……軽蔑する?」 女々しく泣くなんてみっともないと思っていても勝手に涙が溢れてしまう。伸之の返事が怖かった。 「バカだな。俺がどんだけお前のこと見てきたと思ってんだよ。夜中に泣きながら訪ねてきた時点で薄々何かあったんじゃないかってわかってたわ…… しょうがねえじゃん。好きだったんだろ? 別にいいよ。だって今俺を選んでくれたのは事実だろ? もしかして今までそれで引け目に感じてた?」 呆れたように伸之は笑う。 笑ってくれて安心し、充は「うん」と小さく頷き伸之の胸に頭を預けた。 「引け目……というか罪悪感、後悔……裏切ってるって感じて辛かった」 「そりゃ大変だ。でも今は俺のことが好きなんだろ? 充のこと、信じていいんでしょ? 全く、こんなこと黙ってりゃわからないのに、充らしいや」 そう言って子をあやすようにヨシヨシと伸之は充の頭を撫でた。

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