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第33話

ーーーーー 長谷の手を握って長い廊下を歩く。 冷たい手が徐々に温かくなっていく感覚が気持ちいい。 相変わらず、長谷との間は俺の腕と長谷の腕合わせて2本分… 隣を歩いてくれるようになるまではまだ時間がかかりそうだ。 「長谷?」 「…」 「はーせ?」 「…ぇ、あ、はひっ!…」 「はは、長谷ってよく噛むよな?」 「…そ、そう?…」 「そそ。」 「…お、お喋り…慣れて…ない…」 (お喋りって!お喋りってあーた!!) 「放課後、どこ行こっか?」 「…放課…後?…」 「放課後、一緒に帰るんだろ?」 「…う…ん…」 「どこ寄るかって話。放課後は放課後でも、記念すべき俺と長谷の初デートだからな。」 「…で、でぇ…と…」 「そ。デート。どこ行く?」 「…デート…した事…ない…」 「じゃ、俺が決めていいか?」 「…うん…」 「長谷は甘いもん食えるか?」 「…甘いの…は、好き…」 「了解。じゃぁ甘いの食いに行こう。」 「…楽しみ…」 「そっか。なら、無茶苦茶楽しみにしとけよ。頬っぺた落ちるぞ。」 「…うん!…」 長谷は凄く楽しそうだ。 ボソボソ言ってる筈なのに、声が少し踊って聞こえる。 人の声をここまで真剣に聞いた事がない。 長谷の声は聞きづらいし、少しでも上の空だと聞き逃しそうだ。 だから耳を研ぎ澄ませて聞く。 一言も聞き逃さないように… しかし、ここまで楽しみにされると責任重大だ。 なんとしても楽しませてやりたい気分になる。 長谷は、2限から授業に出た。 昼休みまでの授業中、長谷はやっぱりシャーペンと消しゴムを落とした。 唯一変わった事といえば、プリントが長谷まで回ってくるようになった事だ。 これは大きな進歩だと思う。 存在を消したい…という、長谷の強い意志が弱まったからだと俺は信じたい。 (偉いぞ、長谷さん!頑張った頑張った!!あー、早く頭撫で撫でして鳥の巣作りたい!!) この短期間で自分を変えようと頑張った長谷は凄いと思う。 実際、これは俺の勝手な妄想だけど… もしそうなら本当に凄いと思う。 同時に少し焦りもする。 長谷は頑張っているのだとしたら、俺は… 頑張ってなにかをしようとか、なにかやりたい事があるとか、そういうのが一切ない。 長谷の隣を歩いたらいけないのは俺の方かもしれない。 (おおっと、いけないいけない。ウジウジすんのは俺らしくないな!前向き前向き、なんとかなるさー!!なんくるないさー!!) 沈みかけた自分を立て直した。

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