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第36話

校舎裏と言えば、俺も前に毎日通っていた。 生まれたての子猫に餌をやるためだ。 親とはぐれたのか、見つけた時は骨が浮かぶ程ガリガリだった。 毎日毎日餌を与えて、ノラとか勝手に名前をつけて… そこら辺を歩いてる猫くらい肥えた辺りから行かなくなった。 行けば餌をあげたくなるし、構ってやりたくなる。 だから行かない事にした。 ノラは野良猫だ。 だから、人間から餌を与えられる事を覚えたらいけない。 ノラが野良猫として生きていく為に… それに、俺はずっとココに居られるわけじゃない。 せめて体重がつくまで… そう思って餌を与えていた。 (アイツ、元気にしてるかな…) 校舎裏に着いた。 花壇の前にボヤボヤを見つけた。 (居た!!) ゆっくり長谷に近づいた。 「は…」 長谷はあの頃より少し大きくなったノラを撫でていた。 声をかけようとした時だった。 「…ユー…タ…可愛い…」 ドキッと心臓が高鳴った。 長谷が俺の名前を口にした。 間違いなく俺の名前だ。 でも、長谷の顔が向いているのはノラの方で、俺には気づいていない筈だ。 自惚れじゃなければ… 長谷は野良猫に俺の名前をつけて毎日愛でている事になる。 俺を好き好き言う長谷なら無きにしも非ず… (…ヤバい…長谷さん、可愛すぎだろ…) 声をかけたかった筈なのに、俺は躊躇している。 熱くなった真っ赤であろう顔を見られたくない。 あまりにも恥ずかしすぎる。 俺に気づいたのは長谷よりもノラが先だった。 長谷から離れて俺に寄ってくる。 (あ"~、ノラちゃん待て待て、今はダメだから、マジでダメだから長谷んとこ戻ってろ…来るな来るなっ!) 「…ぁ、…ユー…タ…待っ………!?」 しゃがんでノラを見ていただろう長谷の顔がゆっくりと持ち上げられてから固まった。 「…や、やぁ、長谷さん…」 顔がヒクつく。 なかなか無理がある挨拶だ。 「…ひ、ひひひひ…氷上くん!?…ち、違…ッ…違う…」 長谷の下頬はピンクだ。 「…な、なにかな?な、なんの事かな?俺、ワカンナイナ…うん、ワカンナイナ…」 「…き、聞いて…ない?…」 「あぁ、うん、今来たとこだから、ワカンナイナ…」 「…良かっ…た…」 長谷がホッと息を吐いて立ち上がった。 相手が長谷じゃなかったら誤魔化せなかったと思う。 (長谷さんが天然で良かったですよ、マジで…) そう思わずにはいられなかった。

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