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第37話

足にスリスリ身体を擦り付けてくるノラを抱き上げた。 「ノラちゃんは相変わらず懐っこいな。」 クリクリ顎を撫でると、ゴロゴロと喉を鳴らして気持ちよさそうに目を閉じた。 「…ひ、氷上く…ん…」 「ん?」 「…ぼ…僕が、分か…る?…」 「当たり前だろ。」 「…ほんと…に?…」 「どうしたんだよ、変な事言って。」 「んーん…よかっ…た…と、思っ…て…」 長谷はホッとしたような声で言った。 でも、どこか切なくも聞こえる。 胸をチリチリ締め付けるような、そんな感覚の声な気もする。 「ところで長谷さん、俺は激しく怒っている。」 「…お、おこ…」 「そう、怒っている。おこですよ、おこ。」 「…なん…で?…」 「なんでって…そっか…長谷は、そんな単純な事も分からないのか…」 これは、言ったらいけない言葉だ… でも、言わなければ長谷は一生理解できない。 「…ご、ごめ…なさい…」 長谷は人との繋がりを持たずに生きてきた。 人の気持ちが分からなくて当然だ。 いきなり俺の気持ちを理解しろという方が間違っている。 「謝らなくていい。ただ…」 「…た…だ?…」 ゆっくり長谷に近寄る。 「………俺は、長谷と昼飯が食べたかった…」 身を屈めて、長谷の耳元でそう囁いた。 長谷の耳にずっと残るように… きちんと長谷に届くように… 自分で俺の気持ちを考えられるよう… 長谷は、俺が囁いた方の耳に触れた。 「…僕…と?…」 横を通り過ぎ、ノラを下ろすと、軽く伸びをしながら振り返って長谷を見た。 「そ、長谷と。」 「…」 「さてさて長谷さん?」 「…う…ん?…」 「ここで問題です。昼休みはあと20分です。教室に戻って弁当を広げたらタイムオーバーです。ちなみに俺は長谷探しに必死で飯を教室に置いてきてしまいました。とてもお腹が空いています。」 「…」 「そんな可哀想な俺に、長谷はどうしたらいいでしょうか?」 「…え…と…」 「10秒でお答えください?…10、9、8、7…」 長谷はアワアワしながら考えている。 考える事は大切だ。 そうしないと人の気持ちなんて一生分からない。 考えて、考えまくって導きだした答えでも間違う事はある。 俺だってそうだ。 こんな偉そうな事を言える程できた人間じゃない。 人と真剣に向き合う時、間違えを怖がったら駄目だ。 「…あ、あの…えと…」 「6、5、4、3…」 「…あ、あ…ぅ…」 (考えろ…長谷…) 「2、1…」 「…ぼ、僕…僕のお弁当で…良ければ…」 「0.5…」 俺もだいぶ甘い。 (0.5ってなんぞや?) 「…い、一緒に…食べる?…」 「はい、大正解。ほれほれ、早く弁当を広げてください、長谷さん?」 「…あ、うん…待っ…て…」 長谷は、花壇の前に置いてある弁当を広げ始めた。 急いでるらしいけど、結構トロい。 それがまた可愛いかったりする。

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