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第42話
クレープ片手にゆっくりと座って食べられそうな場所を探した。
「公園に戻るか。あそこならベンチがあるし、ゴミ箱もあるから。」
「…あ、うん…」
折角焼き立ての生地だ。
どうせなら温かいうちに食べたい。
早歩きで公園まで戻った。
適当なベンチに長谷と並んで座った。
隣で長谷が両手でクレープを持ちながら、そわそわとそれをガン見している。
「食おうか?」
「…うんっ!」
はっきりボイスの即答。
先に食べてて良かったのに、俺のGOを待ってる辺りが長谷らしい。
俺は一口でバナナまで到達したけど、長谷の一口は小さい。
パンパンに具が入ってるクレープなのに、まだ生地しか食べられていない。
(生地の歯形エロいなぁ…。つか、唇にちょんって付いたホイップクリーム可愛いっ。)
横顔を見ながら口元を緩ませて和んでいる俺に気付かない長谷は、ペロッと唇に付いたホイップクリームを舐め取った。
(あぁ、しゃぶり付きたい…)
正直、俺としてはクレープどころではないわけだが、長谷のペースに合わせると決めた以上は我慢だ。
「美味い?」
ホイップクリームといちごが長谷の口に入ったところで声を掛けた。
「…う…ん、美味しっ…」
デートにスイーツは必須だ。
喜ばせたいっていうのもあるが、一番は甘い物でテンションが上がってる相手の無防備な姿を見せてもらえる。
まぁ、長谷の場合は顔は見えない訳だが…
頬にはくっきりえくぼがあるし、喜んでくれている筈だ。
「そりゃ良かった。」
「…なんか…」
「ん?」
「…こういうの…初めて…」
「…」
「…幸せ…だな…って…」
胸が締め付けられた。
長谷は、美味しい物にありつけた事より、今の時間に幸せを感じてくれている。
こんな子初めてだ。
嬉しい。
でも…
長谷と居ると、自分がちっぽけに見える。
喜ばせたいとか、無防備な姿が見たいとか…
そんな低レベルの考え方しか出来ない自分にガッカリする。
こんな奴が、長谷を守ってやりたいとか笑える。
「長谷、俺の一口食うか?」
「…え?…」
「いらない?」
「…い、…いる…」
「はい、あーん。」
「…えぇ!?…」
「ほら、あーん。」
ゆっくり長谷の口にクレープを近付ける。
長谷はおずおず小さい口を開いた。
ぱくっ、はむはむ…
「…美味しっ…」
ふぁーっと風巻き上がる。
うっすら一瞬覗いた長谷の顔…
相変わらずボヤボヤしてて、特徴もなくて、ぶーちゃんで…
だけど…
凄く可愛くて、愛しいと思ってしまった。
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