44 / 45

第43話

長谷は慌てて、前髪を集めた。 おっとりめの長谷もこの時ばかりは素早い。 「はは、素早っ!」 「…見た?…」 「見てない見てない。」 長谷がホッと息を吐いて、またクレープをはむはむする。 (小動物かっ!つか、ばっちり見たけど。) ここは見ていないと答えるのが正解だ。 長谷のぶーちゃんはとても可愛いのに何故そんなに隠したがるのか… こんな顔をした人間はこの世に五万と居ると思う。 その人間がいちいち自分を隠して生きるようになったら世も末だ。 長谷だけが何故隠さないといけないのか… きっと先生が言ってた事が関係しているんだろうけど… 「…ひ、氷上くん…」 ふと名前を呼ばれて長谷を見た。 「ん?」 「…食べる?…僕の…も…」 半分程減ったクレープを差し出された。 「食う!」 もちろん即答だ。 断る理由なんてない。 差し出されたクレープにパク付く。 長谷の下頬がピンクだ。 「…お、美味し?…」 「あぁ、美味いっ。」 長谷の口角がゆっくり上がる。 (…もっかい見たいなぁ…。つか、笑った顔見た事ないしなぁ…) 「長谷さん。」 「…は、はひっ…」 「顔見して。」 「…だっ…ダメっ…」 長谷は、片手で思いっきり前髪を押さえた。 (ですよねぇ~…) 「じゃぁ、そのまんまでいいから写真撮らせて。」 「…そ、それも…ダメっ…」 (ですよねぇ~…) 「じゃぁ、LI◯EのID教えて。」 「…あ、…あの…」 「ん?」 「…らい◯…あいでぃーって…なに?…」 思いっきり小首を傾げられた。 このご時世にLI◯Eを知らないとは… LI◯Eとは、スマホのアプリ。 無料でチャットや通話が出来るコミュニケーションツールだ。 今や、日本人の2人に1人は使用していると言われている。 「じゃぁ、ケータイ貸して。」 「…う…ん…」 長谷がゴソゴソカバンを漁りだした。 俺もポケットからスマホを取り出す。 渡された長谷のスマホ画面は、壁紙も設定されてなくて、アプリも初期から入っているようなものだけだった。 (あ…) ただ一つ、世界で8億回以上ダウンロードされ、良くも悪くも社会現象になり、一大ブームを巻き起こしたアプリがあった。 現実世界のいろいろな場所を探索して、モンスターを捕まえるアプリだ。 長谷の好きなゲームは、どうやらポ◯モンだったらしい。 「ちょっと弄るな?」 「…うん…」 「アプリダウンロードしていいか?」 「…あ、う…ん…」 ストアをタップして、LI◯Eを検索。 インストール。 暫くしてインストール完了し、お互いのスマホをフルフルして、IDを交換した。

ともだちにシェアしよう!