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第3話
許しを貰って、新作の試食が出来る事になった。
稑くんのドルチェはやっぱり美味しかった。
だけど…
「なんかが足んないんだよな…」
僕の言おうとしていた言葉はオーナーさんに取られてしまった。
「…そうですか。」
稑くんが苦笑した。
沈んだ声…
曇った表情…
まるで、そう言われる事が分かっていたみたいな口振りだった。
最近、どこか上の空だった理由は多分それだ。
稑くんは一人で悩んでいたのかもしれない。
僕はそれに気づいていながら声をかけてあげる事ができなかった。あげられなかった。
稑くんも、僕を頼ってはくれなかった。
僕はただのスイーツオタクで、頼られても何も気の利いた事を言ってあげられないけれど、話くらいは聞く事ができる。
でも、頼ってはもらえなかった。
稑くんは、そういう傾向がある。
なんでも自己完結させる癖…
誰にも頼らずに、全部一人で完結させてしまう。
自己完結なんて、自分を生き辛くするだけだ。
「なぁ前川、こないだの事まだ気にしてるのか?」
「…まさか。あんな事いちいち気にしてたら、この仕事は勤まらないじゃないですか。」
こないだの事って…
僕はなにも聞いていない。
「…」
それがなんの事なのか聞きたいけれど、きっとそれは許されない。
居たたまれない気分になった。
「紘二…」
なぜなら、稑くんの瞳が "帰れ" と訴えていたからだ。
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