4 / 81

第3話

許しを貰って、新作の試食が出来る事になった。 稑くんのドルチェはやっぱり美味しかった。 だけど… 「なんかが足んないんだよな…」 僕の言おうとしていた言葉はオーナーさんに取られてしまった。 「…そうですか。」 稑くんが苦笑した。 沈んだ声… 曇った表情… まるで、そう言われる事が分かっていたみたいな口振りだった。 最近、どこか上の空だった理由は多分それだ。 稑くんは一人で悩んでいたのかもしれない。 僕はそれに気づいていながら声をかけてあげる事ができなかった。あげられなかった。 稑くんも、僕を頼ってはくれなかった。 僕はただのスイーツオタクで、頼られても何も気の利いた事を言ってあげられないけれど、話くらいは聞く事ができる。 でも、頼ってはもらえなかった。 稑くんは、そういう傾向がある。 なんでも自己完結させる癖… 誰にも頼らずに、全部一人で完結させてしまう。 自己完結なんて、自分を生き辛くするだけだ。 「なぁ前川、こないだの事まだ気にしてるのか?」 「…まさか。あんな事いちいち気にしてたら、この仕事は勤まらないじゃないですか。」 こないだの事って… 僕はなにも聞いていない。 「…」 それがなんの事なのか聞きたいけれど、きっとそれは許されない。 居たたまれない気分になった。 「紘二…」 なぜなら、稑くんの瞳が "帰れ" と訴えていたからだ。

ともだちにシェアしよう!