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第12話
チョコと遊ぶ稑くんと目が合って、チョイチョイと手で呼んだ。
稑くんがおもちゃを床に置いてキッチンへ来た。
「どうした?」
チョコとの時間を邪魔された稑くんは少し不機嫌だ。
「んー、稑くんに味見してもらおうと思って。」
「は?昨日のカレーだろ?」
「そうだけど、多分昨日より味に深みが出て美味しいよ。」
スプーンを稑くんの口元に持っていくと渋々それを食べた。
「………ん、美味い…」
あまり辛いと稑くんの舌が鈍くなるし、逆に甘過ぎるとカレーの意味がない。
この3年間稑くんが美味しく食べられる味付けを…
次の日に響かない様な味付けを…
きちんと考えて作っている。
それは失敗と成功を繰り返していて、今もまだまだ研究中だけど…
頼まれてもないし、ただのお節介かもしれないという事は分かってる。
「そう、良かった。」
稑くん、君はちゃんと気付いている?
ただのお節介だと分かってても求めてしまう。
"美味しい" という一言を…
「…なぁ、紘二。」
「うん?」
「お前、俺の新作どう思った?」
「…」
「聞かせてくれ…」
「オーナーさんと同じ印象かな。先に言われちゃったけど…」
稑くんの瞳は真剣で、建前ではいけないと思った。
「そうか…」
稑くんは伏せ目がちに言った。
その声も姿も弱々しくて、いつもの強気な稑くんはどこにも居なかった。
「稑くん…なにかあったって…聞いてもいい?」
「別に…、何もない。」
嘘だ。
オーナーさんの言葉が引っ掛かってるせいか稑くんの言葉が全て嘘に聞こえる。
カレーを温めていた火を止めて、稑くんを抱き締めた。
今にも消えてしまいそうで、怖かった。
だからこの腕の中に閉じ込めた。
「稑くん、どうしても、話したくない?」
「…」
「うん、そっか…。分かった。」
僕は稑くんの頭をそっと撫でた。
誰にでも聞かれたくない事の1つや2つあると思う。
でも稑くんの場合は、それがあまりにも多すぎる。
1つや2つどころじゃない。
下手したら、僕は稑くんを何も知らないのかもしれない。
考えれば考えただけ…
不安に押し潰されそうになった。
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