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第13話

いつもなら、離せだとか、ベタベタするなだとか、暑苦しいだとか言われて押し返されてしまう筈なのに、今日の稑くんはいつもと違った。 大人しく僕に抱き締められてる。 「紘二…」 「うん?」 「暑苦しい…」 あ… やっぱり稑くんは稑くんだった。 「駄目。今日は離しません。」 「なんだそれ…」 「僕が、稑くん不足だから…かな…」 「甘えんな。」 「駄目。今日は甘えます。」 「ガキ。」 「ガキで結構です。」 「キャラが定まってない。」 「ん…分かってます。」 「バカ…」 多分、久しぶりに訪れたそういう雰囲気… 本当に久しぶりすぎて… それが正しいのかもよく分からない。 「稑くん…」 稑くんを見つめて相手の出方を伺う様にキスをした。 稑くんの唇は閉ざされたままだ。 そしてフイッと顔をそらされた。 「紘二…今は、そういう気分じゃない…」 思わず大きな溜息が漏れた。 すぐに態度に出るのとかはどうかと思うけど、流石の僕もなかなかにショックだ。 普段なら流せる筈のことができなくなっている。 情緒不安定… 溜息の1つや2つ、ついておかないと恥ずかしくていられない。 場の雰囲気に流されて、しかもそれを見誤っていたなんて… 「そう、なんかごめんね。カレー温め直すね。」 「あぁ…」 でも、何だろう… この冷えきった感じ… ここまでだったなんて… そんな事を思いながら、再度火を付けた。 「稑くん、カレー温めておいたから食べてね。…僕はやっぱり少し具合悪いからシャワー浴びて寝るね?」 僕は逃げた。 本当に馬鹿みたいで、恥ずかしい… 若い頃は勢いで乗り切れたけど、大人になってからのこういうのは本当にダメージが大きい。 僕は火を止めてキッチンを出た。 ダメージは思いの外、深かった。 シャワーを浴びる事すらも億劫だ。 何もかも放棄してしまいたくなるくらい疲れた。 「稑くん…」 何を隠してるのだろう… それは、僕を遠ざけないといけない程の事なのかもしれない。 聞きたかったけれど話したくないと言われてそれを聞き分けてしまった。 多少強引にでも聞き出すべきだったのかもしれない。

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