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第14話
- 稑side -
またやってしまった…
しかし、今さら後悔したところでどうこうなるものでもない。
口に出してしまった言葉は、もう訂正できない。
二度と…
普通ならここで必死に訂正するんだろうが、俺はしない。
いや、正しくはできない。
それが俺の悪いところだ。
訂正できる確率が1%でもあるなら…
そう思うのが普通だ。
でも、俺はその1%に賭けられる程強くはない。
賭けるどころかやる前から逃げている。
俺は…只の臆病者だ…
紘二は何でも許してくれる。
さっきみたいに黙れば聞き分けてくれる。
俺は、それを分かった上でやっているのだから、タチが悪い。
俺が紘二だったら、とっくに別れてる。
俺は、それくらい嫌な人間だ。
紘二は俺のどこがそんなにいいのか…
自分の事が大嫌いな俺には全く検討もつかない。
紘二の事は好きだ。
どちらかと言えば、一人で居る事を好む俺が一緒に暮らせているのだから、それだけで好きだという証明になる。
しかし、それがどんな好きなのか…
そう問われると少し困る俺が居るのも確かだ。
愛なのか…
情なのか…
付き合って5年といえば、男女のカップルなら結婚して子どもが居るか居ないかくらいの時期…
もしくは愛が情に変わってその状況が甘えとなって離れられなくなっているか…
結婚をする事が選択肢から排除された俺たちは、今の状況から考えて後者…
紘二はそうじゃないかもしれないけど、俺はそう感じている。
そう感じているのに、紘二を手放せない。
俺は、いつだって紘二に甘えている。
俺を甘やかしてくれる人間は、紘二しかいない。
俺は施設で育った。
両親も分からない。
物心付いた時には施設に居た。
つまり、天涯孤独…
俺はこのままずっと一人だと…そう思っていた。
でも、紘二に出会った。
そして、俺の世界全てが変わった。
紘二と出会う前に、付き合ってた人が居た。
でも、その人には家庭があった。
家庭だけじゃない…
俺と同じような相手が他にも数人居た。
そんなグズ野郎だった。
それを知ってて好きになったんだから仕方ない。
向こうは俺が好意を寄せていた事に気付いていた。
俺も俺で、相手に愛情なんてなくて、ただ興味本位で誘ってきただけなんだという事に気付いていた。
まだ若かった俺は、例え興味本位でも嬉しかった。
でも、その先にはなにもない…
分かっていながら手放せずにズルズルと落ちた結果、全てを失った。
既婚者との不倫…
ましては同性…
どうなるかなんて分かっていた筈だ。
あまりにリスクが大きすぎた。
バレた時にあの人が庇ってくれるわけもない。
俺だけが職場を辞めなきゃならない状況に追いやられた。
そして無職になった俺を今の店のオーナーが拾ってくれた。
その拾われた先で紘二と出会った。
もう捨てられたくない。
いろんなものに捨てられてきた俺はただすがり付いているだけなのかもしれない。
店にも…
紘二にも…
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