16 / 81

第15話

だからと言って、紘二を傷付けていい理由にはならない。 当然、店に迷惑をかける理由にも… オーナーも紘二も俺が本調子じゃない事に気付いていると思う。 でも… その理由はとても言えない。 それを言ったら、店を辞める事になる… 紘二だって、離れていくかもしれない。 それを言う事は、俺にとって致命的だ。 もしそうなったら、俺はどうやって生きていけばいいか分からない… それを考えるだけで怖い… 生き甲斐も、紘二も失ったら… 俺は、どうやって生きていけばいいんだ… 怖い… 紘二… 助けてくれ… それすら言えない。 俺が必死に隠しているそれに気付いた人物が居る。 オーナーと紘二は騙せてもプロは騙せなかった。 評論家というやつだ。 呼び出されてボロクソに言われた。 おまけにブログというやつでも… オーナーはただの批判だと思っている。 肝心な部分は耳打ちだったし、ブログにも書かれていなかった。 もう隠し通せないかもしれない… バレるのも時間の問題だ。 これは罰に違いない。 紘二を試してきた罰… 冷たいフリをして… 酷い事を言って… それでも側に居てくれるか試した。 俺はそういう接し方しかできない。 今更優しくなんてできない。 俺はお皿にご飯を盛り、カレールーをかけてセンターテーブルの前に座った。 チョコちゃんが俺の膝に乗った。 「…ごめんね、チョコちゃん。…これはね、チョコちゃんは食べられないんだ…」 頭を撫でて膝から下ろした。 チョコちゃんを拾ってきたのは俺だ。 段ボールの中で震えていた小さいチョコちゃんが自分と被った。 オーナーが俺を拾ってくれたように… 紘二が俺を拾ってくれたように… 俺もチョコちゃんを拾って、愛してあげたかった。 俺が貰った沢山の愛情をチョコちゃんにも注いであげたかった。 教えてあげたかった。 俺の勝手なエゴだ。 紘二が作ったカレーを口にした。 「美味い…」 自然に涙が溢れた。

ともだちにシェアしよう!