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第21話

これが夢なら覚めてほしい… 止めろ… 止めろ… もう、止めてくれ… 気付けば俺の目からは涙が溢れていた。 紘二の前で泣くのは初めてだ。 こんなにも一緒に居て… 初めての事だった。 「泣いてるの?稑くん…」 「ひ…うぅ…」 「…ズルいよ…なんで今…?」 「う…ぅ…ひっ…く…」 「ごめん…ごめんなさい、稑くん…」 後ろから聞こえた紘二の声は震えていて、今まで聞いたどんな声よりも弱々しかった。 狡いのは紘二の方だ。 なんで俺じゃなくて、紘二がそんな弱々しくて傷付いた声をしているのか… 俺の全てが麻痺して、紘二の気持ちなんてものは考えられなかった。 気付けばもう、紘二の重みも熱も、痛みさえも感じられなかった。 多分、もうこの部屋に紘二は居ない。 尻を突き出したまま動けずに居る俺は、さぞ滑稽だろう… あんなに嫌だったクセに、やるなら最後までやれよ…と思ってしまう俺に笑えてきた。 泣いてるのに笑える… 壊れてしまったんじゃないかと不安になった。 身体を起こすと、まだ身体中に紘二の感覚が残っていた。 でも、その感覚は心地良いものなんかじゃなくて、間違いなく負の感覚… とりあえず今は… ココには居たくない… ココに対してこんな風に思うのは初めてだ。 俺の居場所… 俺の唯一の… そう思っていたのに… 足元に纏わり付いた下着とズボンを上げて家を飛び出した。 行く宛なんてどこにもない… 俺が安らげる居場所は… 俺が安らげる人は… 紘二だけだった。 分かっていたような気分になっていただけで、根本的な部分を分かっていなかった。 多分、紘二は追いかけて来ない。 俺だけが傷付いたわけじゃない。 同じように、紘二も傷付いたと思う。 俺があんな事をさせた。 優しい紘二をあそこまで追い詰めた。 ちゃんと話していればよかった… 今更そんな事を考えてももう遅い。 こんなにも拗れてしまった… 戻りたくても… もう… 遅い…

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