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第22話

行く宛もない俺は、ただひたすら歩いた。 何処へ行くつもりで飛び出したのか… 自分の行動はあまりに衝動的だった。 程よく頭が冷えて、落ち着きを取り戻した今、そんな事を考えていた。 多分、泣いた目は赤くなっているんだろうし、髪はぐしゃぐしゃなんだろう… 相当酷い事になっていると思う。 フラフラ歩いているだけの俺の足が止まったのは、店の前だった。 窓越しに中を覗くと、店内は暗かったが、奥の厨房に明かりを見つけた。 オーナーは俺より先に帰ったし、多分シェフだと思う。 俺は裏口に回って中に入った。 「柊さん、お疲れ様です。」 「なんだお前。つか、何帰ってきてんだよ。」 「あー…ちょっと…」 「忘れ物か?」 「あー…いえ…」 「はっきりしねぇヤツだな。面倒くせぇ。」 柊利彰(ひいらぎとしあき)。 彼はこの店のシェフだ。 「ちょっと…鍵を、無くして…」 「鍵?鍵なんか要らねぇだろ?それにお前、あの犬っころと帰ったんじゃねぇのか?」 「…犬っころ?」 「そ。ご主人様にべったりな犬っころ。」 「……紘二の事…ですか?」 「そうそう、それ。…つか、あれか。ついに愛想尽かされたか。」 「…」 「図星。」 「俺は、何を間違えちゃったんですかね?」 「知るかよ、お前の事なんて。つか、俺は自分の事で手一杯だ。知ってんだろ、コンクール前だって。」 「ですよね…」 柊さんはコンクールを控えていて、ここ1ヶ月ピリピリしている。 もともとこんな感じの人だけど、最近は更に拍車がかかっている。 「分かってんならさっさと帰れ。」 「あの、1日だけで構わないので、店に泊まらせてほしくて…」 「はぁ?そんな事はオーナーに聞けよ。俺にそんな権限ねぇし。…つか邪魔。…居るんなら休憩室行け。」 「…そうさせてもらいます。」 俺は場所を休憩室に移した。 行き場所があそこかここしかないだなんて淋しいものだ。 いや、まだあるだけマシなのかもしれない。 ここだって、柊さんが残ってなかったら入れなかった。 やっぱり、あそこ以外に自由に出入り出来る場所なんて、俺にはないんだと改めて感じた。

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