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第25話
バレてしまった。
多分、バレたからには店は辞める事になる。
それは、ずっと頭の片隅にあった事だし、覚悟もしていた。
でも、あまりに急すぎて心の準備ができていなかった。
「なんで…」
「前川、お前、俺を騙せると思ってたのか?」
「…」
騙す…
そう言われてしまったら返す言葉もない。
オーナーも…
柊さんも…
そして、紘二も…
俺は大切な人達を騙してきた。
でも、正直になんて言えるわけがない。
ようやく見つけた居場所を失いたくなかった。
でも、どちらにしろ失う結果になった。
きちんと話せばよかったのか…
正解なんて分からない…
「追い詰めようと思ったわけじゃねぇ。ただ、確信が欲しかった。それだけだ。」
「気付いていたんですね?」
「あぁ、薄々な。」
「そう…ですか。…正直に話しておくべきでしたよね?」
「いや、こればっかりは易々と言える事じゃねぇからな。俺が前川の立場でも、話せなかったと思う…多分…」
「柊さん…なんで、気付いたんですか?」
「俺はオープンからお前と一緒に居て、毎日お前のドルチェ摘まんでんだぞ、味の変化くらい分かる。それに、あんなに楽しそうに作ってたお前の顔、ここ数ヶ月見れたもんじゃなかった。」
柊さんは料理センスはもちろん、その舌も本物だ。
柊さんの仕入れる食材に間違いはない。
センスと舌で食材を見極める。
食材の状態からどんな料理に適しているか即座に判断する事できる。
俺もフルーツを使う時は柊さんに調達を頼む。
それは、絶対の信頼があるからだ。
「そんなに違いました?」
「あぁ。確かに旨い。旨いに違いないが、忠実になった。」
「忠実…」
「レシピに忠実になった。」
レシピ…
俺が考えたレシピは俺の頭の中にしかない。
つまり、柊さんは基礎となっている味を理解してる事になる。
ホント…
柊さんの舌は恐ろしい…
そして…
なによりも、羨ましい…
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