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第26話

今となっては無い物ねだりだ。 自分の舌には自信があった。 施設育ちの俺はあまり良い物は食べられなかったけど、職員さんが作ってくれたお菓子は本当に美味しくて、いつも学校から帰るのが楽しみだった。 職員さんからお菓子作りの基礎を学んで、施設を出ると同時に働きながら専門学校に通った。 卒業してからは前の店に就職して毎日毎日死ぬもの狂いで働いて、それでも充実していて楽しかった。 でも結局、あの人との事がバレて居られなくなった。 でもそれは仕方ない事だ。 そう割り切る事しかできなかった。 当時は働く事で紛らわしてはいたが、とにかく淋しかった… だから、その隙間を埋めるように入り込んできたあの人を、拒めなかった。 拒む理由もなかった。 とても憧れていた人だった。 ノンケって分かった時点で諦めていたし、家庭があるなら尚更だ。 そう思っていたのに… 若気の至りというか、当時の俺は本当にバカだった。 「誤魔化せると思ってたんですけどね…」 「んなわけねぇだろ、俺をナメんな。」 「はは、すみません。」 自信たっぷりに言う柊さんに思わず苦笑してしまった。 でも柊さんの表情は真剣だった。 「あの犬っころには?」 「言ってません…」 「はぁー?バカか、お前。一番に言う相手だろ、犬っころは!」 「言えませんよ、紘二には。…とても、…言えない…」 「だって付き合ってんだろ?」 「それは…そうですけど…」 「付き合って半年とかじゃあるまいし。」 確かに、俺と紘二はそれなりに長い関係だ。 でも、俺が以前みたいに作れなくなったと知ったら… もし、俺たちを繋ぎ止めてるのがドルチェだったら… 紘二はあの人みたいに… 俺を捨てるかもしれない… そう思うと怖くて言い出せなかった。 あの人と紘二は違う あの人とは、どこかで覚悟しながら付き合っていた。 だけど、紘二とは… 覚悟はもちろん、そんな事を考える事もなかった。 失いたくない… 紘二は、気付かないうちに俺の中でそういう存在になっていた。 俺は、あの時と何も変わっていない。 今の俺は… ただのバカだ。

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