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第31話

暫く待っていると、ちんぴら風の格好をした柊さんがやってきた。 「待たせたな。とりあえず来い。」 「え、あの…」 「絶対連れ帰ってもらうからな。」 「でも今は…」 「だぁー!」 「うゎッ!」 柊さんが大声でそう言った後、ガシガシと焦れったそうに頭を掻いた。 「はっきりしろ!男だろ!女々しい!!白黒付かないのが一番嫌いなんだ、俺は!」 「す、すみません…」 「だからお前は犬っころなんだよ!頼りないったらありゃしねぇ。俺の恋人は激しくバカだが頼りにはなるぞ。」 柊さんは恋人さんの事が凄い好きなんだという事がその発言だけで良く分かる。 「あ、あの…」 「なんだ。」 「いきなりすぎて、心の準備が…」 「はぁー?心の準備だぁー?なんだそりゃ。…お前さ、ホントに前川の事好きか?」 「好きです!当たり前じゃないですか!」 「なら腹くくれ。好きならそれでいいじゃねぇか。それ以外になんの理由がいる。」 駄目だ… この人は男前すぎる。 僕には無理だ。 「それは、…そうですけど…」 「つか、腹減った…」 「はい?」 なんて自由な人だ。 「ファミレス寄るぞ。そんで俺が食ってる間に考えろ。そのヘタレな脳ミソで良く考えろ。お前にとって前川がどういう存在か。」 そう言うと、柊さんは足早にファミレスに入って行って、僕は小走りで追った。 席に座ると、柊さんはメニューを開く事もなく、すぐに店員を呼んで注文をした。 「お前は?」 「あ、じゃぁ、コーヒーを。」 店員が居なくなった後、柊さんは俺を見た。 「で、心は決まったか?」 この人の頭は、どんなフル回転をしているのか… まだファミレスに入って2分も経ってないのに、決まってるわけもない。 「まだ…です。」 「お前なぁ…俺が前川だったらとっくに捨ててるぞ。」 「…」 本当にその通りだ。 なんで稑くんはこんな僕と… 「お前、自分で思ってる以上に前川に愛されてんじゃね?」 「え?」 「そうじゃなきゃお前となんてな、1年持たずに別れるわ。」 確かに… そう思ってしまった。 稑くんが僕から離れなかったのはそこに愛情があったから… そう考えていいんだろうか… 「稑くんに愛されていたと思いたいですけど、実際は…どうだったのか…そこら辺、あまり自信なくて。それに、柊さんの言う通り、自分が稑くんの立場だったとしても別れたいって思うだろうなって思ってしまって…」 「自信なんて必要ない。そこに気持ちがあれば上等。…俺はな、手に入れるまで凄く時間かかった。アイツ、凄ぇ女好きだし…。それに、いまだに俺の平らな胸揉もうとする。マジあり得ねぇだろ。何度もぶっ殺したくなった。」 「はぁ…」 「俺ばっか好きで…。でもよ、諦めようとか思った事なんて一度だってねぇんだ。だって、好きになっちまったもんは仕方ねぇだろ?相手にされないからってそこで嫌いになれるって訳でもねぇし…」 「…」 「前川だってそうなんじゃね?いくら恋人にレイ…」 「ちょ、柊さん!」 「あー悪い悪い。…まぁ、乱暴にされたからってそう易々とは嫌いになれないんじゃねぇ?」 それはそうかもしれないけど、だからこそ少し距離も必要だとも思う。 一体僕は、どうすべきなんだろう… 二人のこれからに必要な選択をしなきゃいけないのは稑くんじゃなくて… 僕だ。

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