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第33話
稑くんの可愛さには敵わないけど、きっとこの人は好きな人の前では凄く可愛くなるんじゃないかなって思った。
目の前で食った食ったとお腹をさすっている柊さんはやっぱり自由で、自然と笑えてきた。
顔の力が緩むのは久しぶりだ。
稑くんが居なくなってから僕は全然笑えてなかった。
柊さん…
苦手だと思っていたけど…
「柊さん、ここは僕に払わせてください。」
僕は伝票を手に取った。
「あ?」
「付き合わせてしまったし、惚気話も聞いてもらったので、そのお礼です。」
柊さんは多分夕食を食べていたんだと思う。
なんとなく、そんな気がした。
「お前な、そんなもんは当たり前だからな?」
「え?」
「一週間分の前川の食費…これじゃ元取れねぇし。」
「すいません、払わせていただきます。」
「よし。」
柊さんは満足気に笑った。
それから会計を済ませて柊さんの家に向かった。
柊さんの家は稑くんの職場から徒歩10分圏内らしい。
「…」
「大人しいな。緊張してんのか?」
「えぇ…激しく。」
「ヘタレな犬っころだからな、お前は。つか、職場から近いだろ、俺んち。羨ましいだろ?」
「ウチも一応20分圏内ですけど。」
「対抗すんなよ。」
「先に言い出したのは柊さんですけど。」
「そうだったか?」
「そうですよ。」
「お前さ、もしかしてアレか?」
「…?」
「自分の出勤負担より、前川の事考えて住むとこ選んでたりすんの?」
「え"っ!」
「図星か。」
「まぁ、僕の自己満足ですけど…」
「なるほど。…前川鈍感だからな。なんか少しお前を不憫に感じてきた。」
「可愛いんですけどね、そういうところも。」
「へーへー…」
柊さんが肩を竦めた。
こんなくだらない話をしながら着いた場所は、かなり高級そうなマンションだった。
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