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第34話
柊さんがお金持ちなのか、恋人さんがお金持ちなのか…
たぶん家賃は僕の月給くらいかもしれないと思うくらいの高級感だ。
エントランスにはコンシェルジュらしき人、高い天井にはシャンデリア、エレベーターは高級ホテルみたいに大きかった。
「僕ね、付き合った当初の甘々な稑くんも好きですけど、今の辛めの稑くんも好きなんですよ。」
「お前、Mなのか?」
「どうですかね?よく分からないですけど…。相手が稑くんだから…かもしれないですね。」
「なぁ、お前、テンパってるだろ?」
「バレました?…実は、かなりテンパってます。」
「緊張するとアホみてぇに喋るタイプって居るとは知ってたが、マジで居るんだな。」
「アホって…。柊さんって口悪いですね。」
「悪かったな。」
エレベーターが止まったのは最上階だった。
「あの…」
「金持ちっぽく見えねぇってか?」
「あ…すいません、失礼ですよね。」
「別に。親が金持ちでな。」
「そうなんですか…」
「まぁ、簡単に言えば、このマンションは手切れ金代わりってわけだ。」
「手切れ…」
「ほら、俺こんなだろ?」
柊さんは顔色一つ変えずに言った。
家族に見放されで悲しいってわけでもなく、家族から放れて精々してるわけでもない…
もちろん、だからと言ってどうでもいいってわけでもない…
そんな表情と声…
「…」
「おいおい、止めろって。もう勘当されて大分経つし、しんみりする必要ねぇから。」
「あ、すいません…」
「お前達って正反対なのな?」
「え?」
「前川なんてこの話した時 "そうですか" の一言だった。ま、俺としては有り難い反応だったけどな。」
「なんかそれ、稑くんらしいです。」
「ちなみに、このマンション見ると大抵は驚くけど、アイツは無反応だった。…あー、でも、流石の前川も部屋見た時は唖然としてた。」
「唖然?」
「そ。使用済みのゴムとか、ジェルとか、おもちゃとか?…あー、言っとくけど、使用済みのゴムに関しては脚色だからな。お前、冗談通じなさそうだから一応言っとく。」
「…」
「マジ冗談通じないのな?」
柊さんのおかげでいつの間にか緊張は解れていた。
「悪かったですね、冗談通じなくて。」
「もう少し柔軟になれ、犬っころ。つか、とっとと降りろ。」
柊さんが軽く僕のお尻を叩いてエレベーターを降りた。
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